24歳を救った2人の“先輩” 覚醒サポートの舞台裏、本気で懇願…繋がった「俺でいいの?」

春季キャンプで練習するオリックス・杉澤龍【写真:北野正樹】
春季キャンプで練習するオリックス・杉澤龍【写真:北野正樹】

オリックス杉澤龍が鷹・栗原に“志願”…返事は「俺でいいの…?」

 バクバクの鼓動を胸の奥に隠して、真っすぐな気持ちを伝えた。「一緒に練習させてほしいです。もし、よかったらお願いします!」。オリックス・杉澤龍外野手が、本気で頭を下げた相手はソフトバンクの栗原陵矢内野手だった。

 4歳上でライバル球団の先輩とは、これまで面識がなかった。昨季の最終盤に、思い切って打ち明けた。「(西川)龍馬さんに相談させてもらいました。“ダメもと”で1回だけ、聞いていただくことはできませんか? とお願いしましたね」。真剣な表情から胸中を察した西川は、笑顔で「OK!」と返事をくれた。

 翌日、顔を合わせるとすぐに「挨拶行こうか!」と西川が誘ってくれた。ソフトバンクとの試合前、練習を終えた杉澤は「龍馬さんと一緒に。クリさんへ挨拶に行かせてもらって、その場でお願いしました。めちゃくちゃ緊張しました」。返事から人間味が溢れていた。

「俺でいいの……?」

 まさかの一言を耳にした瞬間、顔を綻ばせて大きく頷いた。「ありがとうございます……! よろしくお願いします!」。学びたいことが数えきれないほどあった。

「ベンチで試合を見ていた時、PayPayドームでクリさんがホームランを打ったんです。その時に『この打ち方だ!』と思うようになって、そこから映像もずっと見るようになりました。こういう感じで打ちたいな……と。速い球の打ち方が綺麗で、変化球への対応力もあって、理想のバッターでした」

「今年、レギュラーを獲ります。そう書いて欲しいです」

 同じ右投げ左打ちで、背丈や体重も似ている。「クリさんは脱ぐと、本当はものすごくムキムキで体の芯がしっかりしています。だけど、パッと見た感じはそこまで大きいタイプではないじゃないですか? だから『なんで、あんなに打球が飛ぶんだろう』と考えていました」。

 勝負の1年となる2025年。レギュラー奪取を狙うプロ3年目を迎えるにあたり、“極上”の師匠と1月の20日間を過ごした。トレーニングの成果もあり、体重は7キロ増えて85キロになった。

 春季キャンプで実感しているのは「打球が飛ぶようになったこと」。フリー打撃では「ライトスタンドにしか(打球が)入らなかったのが、右中間からバックスクリーンにも届くようになりました。だから、無理しなくていい。打撃の幅が広がりましたね」と両拳をグッと握る。

 11日の紅白戦では2打席で1安打1四球、13日の紅白戦でも途中出場で1打数1安打と気を吐いた。着実に結果を残しているが「続けたいですね」と、さらりと言葉を前に出す。

「このままではダメだなと思っていたので。プロ2年間で学んだことは『メンタル勝負』です。今年、レギュラーを獲ります。そう書いて欲しいです」

 お世話になった2人の先輩へ、恩を返す。「生活習慣から全てが変わりました」。そう言い切る表情から甘さが消えた。目をギラつかせて、グラウンドを縦横無尽に駆ける。本気で思い続ければ、夢は叶う。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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