登板後の戦力外に「なんで?」 育成打診に即答できず…忘れられなかった“広島”の風景
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昨年10月に戦力外通告…広島・小林樹斗が目指す支配下復帰
高卒1年目から1軍で先発を果たすなど、将来のエース候補として期待されていた広島・小林樹斗投手は昨年オフに戦力外通告を受け、今季から育成選手としてプレーする。宮崎・日南キャンプでは「野球ができていることに感謝して、結果にこだわってやるしかない」と黙々と汗を流している。
智弁和歌山高から2020年ドラフト4位で入団。150キロを超えるストレートを軸に多彩な変化球を操る本格派右腕として期待も高かった。しかし2022年に右肘を疲労骨折して以降、怪我と闘う日々が続くことになった。プロ4年目の昨季は2軍で18試合に登板し、1勝2敗1セーブ、防御率5.30。不本意な1年に終わっていた。
戦力外通告は予想もしない形で訪れた。昨年10月28日、日南・天福球場で行われたフェニックス・リーグ西武戦の9回に登板。1回を無失点に抑え、右手に残った手応えとともにオフの鍛錬に突入する予定だった。宮崎から広島駅に着いた直後、小林のスマホが鳴った。画面を見ると球団からだった。
「明日、球団に来てくれと言われました。それだけ言われて返事をして電話を切りました。なので事務所に行くまで、何のことか分かりませんでした」
待っていたのは戦力外通告。「前日に投げていたので『なんで?』の思いはありました。びっくりして何も考えることができませんでした」。予期していなかった突然の宣告に右腕の心は揺れた。
悩んで出した答えは「もう一度、広島でプレーしたい」
球団から戦力外通告とともに育成契約を打診されたが、即答はできなかった。他球団からのオファーを待つことも考えたが、家族や高校の恩師、広島の先輩に相談し、もう一度、赤のユニホームを着てプレーすることを決めた。
「やっぱりもう一度、広島の支配下に戻ってプレーしたいと思い、球団に育成契約をお願いしました。マツダスタジアムのマウンドに立ちたいという思いで自主トレ、キャンプと過ごしています」
右肘手術を受けた影響などもあり、本格的な春季キャンプはじつに3年ぶり。「この時期に野球ができている喜びを感じながら毎日を過ごしています」と、これまでとは違う気持ちで野球と向き合っている。
背番号は「53」から「129」に変わった。戦力外通告を受けた日から、小林は“現実”を受け入れ、復活に向けて着実に歩みを進めている。プロ1年目で抜擢された1軍の先発。2021年11月1日に神宮球場で行われたヤクルト戦、マウンドから見た赤く染まったスタンドの風景を今でも忘れることはない。もう一度あの場所へ、22歳右腕は挫折を力に変えて再起を目指す。
(真田一平 / Ippei Sanada)
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