西武には「男として残れない」 3球団オファー断り…初めてユニホームを着ない決断と今
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元楽天監督・平石洋介氏「やる以上は絶対に遠慮したらあかん」
元楽天監督で、昨年限りで西武のヘッドコーチ兼打撃戦略コーチを退任した平石洋介氏にとって、ユニホームを着ないシーズンを迎えるのは39年ぶりだ。5歳で野球を始めてから初めてのことでも「現場と違う場所から見たとき、どう見えるのかなとか、また何か発見とかあるのかなって」と前向きに捉えている。複数の球団からのオファーを断り、グラウンドの外から野球に携わる道を選んだ44歳の名指導者は、将来の現場復帰について「野球人なので、そういう気持ちはあります」と前を向く。
2012年に松坂世代初となるコーチに就任。2013年に1軍打撃コーチとなり楽天を日本一に導くと、2016年から2軍監督に配置転換された。1軍ヘッド兼打撃コーチとなった2018年、6月に成績不振の責任を取り梨田昌孝監督が辞任すると監督代行に。梨田氏から「悪かった。申し訳ない。あとチームのこと、選手のことを頼む」と言われ「誰かがやらなあかん。じゃあ俺がやるしかない」と腹をくくった。
最下位に終わったその年のオフ、正式に監督就任。松坂世代最初の監督となった。「断る理由はなかったんで。コーチであろうが監督であろうがチームを何とかいい方向に向かせたいという思いは変わらなかった」。39歳での就任で当初「若すぎる」「経験がない」という声も耳に入ってきたが「誰しも最初は経験がない。そんなこと関係あるかって。やる以上は絶対に遠慮したらあかんと思った」とチームを引っ張る決意を固くした。
前年の最下位から3位に躍進。クライマックスシリーズ(CS)ではソフトバンク相手に先勝して追い詰めるなど確実にチーム力を底上げさせながら、契約は1年で終わった。ファンからは球団の対応を疑問視する声もあった中、「いろいろ思うこともありますけど、でも我々の世界ってそういう世界なんで。評価されてないんだったら、“そうですか”って潔くやめようと思ってコーチも引き受けたので、監督も(同じ)ですね」と未練は見せない。すると、ある球団から早速オファーがきたという。それは断ったが、今度はソフトバンクからも声がかかった。
ソフトバンク、西武でもコーチ歴任も「男として、これは残れない」
ライバル球団の1軍打撃兼総合コーチに就任。「自分が勉強するために来ましたなんて口が裂けても言えない。でも強いチームなんで、心のどこかでホークスを見てみたいとか、どんなんなんだろうというのは正直興味がありました」。実際にチームに入って感じたのは「大人な選手が多いこと」。指示しなくても、選手自身が状況に応じて考えて打撃していたことが印象に残っているという。そして「誰が1軍かなって考えると、意外と層は厚くない」ということだった。
2022年には早くも3球団目となる西武の1軍打撃コーチに。ただ秋山翔吾外野手(広島)、浅村栄斗内野手(楽天)、森友哉捕手(オリックス)、山川穂高内野手(ソフトバンク)ら主力が次々と流出する状況では苦戦は必至だった。「世代交代の前に勝手に(主力が)いなくなる。戦力もダウンするし、いいお手本もいなくなる。マイナスは大きい。ライオンズは(対策を)考えないといけない」。2023年にはPL学園の先輩である松井稼頭央氏が監督に就任。平石氏はヘッドコーチとして懸命に支えたが、苦しい戦いが続いた。
昨年5月、松井氏が成績不振で休養となると、平石氏も退任を決意していた。しかし松井氏から「何とか残ってほしい。お前も辞めたら、残された選手はどうするんや。頼むから選手のためを思ってやってくれ」と懇願され翻意。何とかチームを立て直そうと奔走した。オフには球団から継続要請を受けたが、松井氏の退任と同時にやめる覚悟は固まっており「男として、これは残れない」と判断した。
西武以外にも2球団からオファーがあった中、「心は揺れました。(現場を)離れるのも勇気がいる。悩みに悩みましたね」と熟考の末にユニホームを着ないことを選択。「今年1年(現場を)離れてみて、自分がどう感じるのか。もしかしたらさらに野球に対する思いが強くなって、やっぱり野球やなって思うかもしれないし、逆になる可能性もある。他の競技とか野球以外のことにも触れてみたい」と新しい経験を重ねて視野を広げ、新たなパワーを身につけたい考えが広がる。
くしくも今年は自身以来、松坂世代2人目の指揮官となる同期の阪神・藤川球児監督が誕生。「やっぱね、同い年というのは特別な存在。どこで監督やっても大変なんですけど、特にタイガースは違った大変さもあると思う。思い切って自分を貫いてほしい」。自身の経験を思い重ねるようにエールを送った。多くの球団からラブコールを送られる44歳。現場復帰への思いは「もちろんあります。今後ありがたいオファーをいただいたら考えたい。野球をずっとやってきて、恩返ししたいという気持ちはずっとある」。その口調は力強かった。
(尾辻剛 / Go Otsuji)
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