右腕切断→始球式後に体調悪化 退院できず手術続きも…消えぬ野球への思い「もっとできる」

少年野球の大会で始球式を行った佐野慈紀さん【写真:小林靖】
少年野球の大会で始球式を行った佐野慈紀さん【写真:小林靖】

糖尿病で右腕を切断も…左腕で始球式

 近鉄、中日などでプレーした佐野慈紀氏は引退から約20年後の昨年5月、糖尿病の影響で右腕を切断し、大きなニュースとなった。自身のブログでは現在、病気のことや左投げの練習をしていることなどを積極的に発信中。昨年12月には少年野球の大会で始球式を務めたが、その約1か月前には体調が悪化。無理をして登板をしていた。

「始球式で『左のピッカリ投法』を披露することを目標に、練習も積んでいたんです。でも11月のある日、腰に激痛が走りました。全く動けなくて救急車で運んでもらい、病院でも当初はぎっくり腰と言われました。ところが全然良くならなくて、さらに大きな病院で検査してもらったら、感染症による激痛でした」

 足の指や手の指、さらには右腕までも切断するに至った感染症。糖尿病の影響で医師からは「かなり日数がかかりますよ」と告げられた。再び入院生活となり、始球式の日が近づく中、体調はなかなか良くならない。ただ、なんとしても成功させたいと思う気持ちは変わらなかった。

 始球式の1週間前ほどに外出許可をもらった。「先生もまさか立ち上がってボールを投げるとは思っていなかったみたい」。車椅子でマウンド前まで向かい、ワンバウンドだったが、帽子を飛ばすことにも成功した。「マウンドに上がっていたら思いっきりこけたと思う。それでもとにかく帽子だけは飛ばしておこうと。ボールは届かなかったけど、なんとか真っすぐ投げられたから恰好はついたかな」。今の体調を考えれば、大成功だった。

始球式で「もっとできると」…目指す次なる目標

 しかし、その後、体調はさらに悪化していく。「始球式を終えてホッとしたんでしょうね。そこから一気に悪くなった。ちょっと無理がたたったね、と先生たちにも言われました」。年末年始は狭心症で吐き気と倦怠感に襲われた。「左のピッカリ投法」の代償は大きかったが、体調については今後も一進一退だと覚悟している。

「腰は感染症による膿が溜まっていたのを取り除く手術をしました。腰椎の間を削ったのでその痛みがまだ残っているけど、これはじきに良くなりそうです。でも感染症は、今後も似たようなことは何回かあるでしょうね。あとは心臓の弁膜症があって、悪化したらいつか開胸手術をしなきゃいけない。そのための体力をつけなきゃいけないですね」

 今も入院生活は続いているが、遠からず退院の見込みもある。「でも退院するとどうしても早く体力を回復させたいし、普通の生活に戻りたいと思ってしまう」。治る病気ではないことは覚悟をしているが、どうしても気は焦る。

 昨年5月に右腕を切断して以降、12月の始球式を目標にリハビリを続けてきた。「左のピッカリ投法」を実現した今、次なる目標を掲げている。「左で始球式をやってみて、もっとできると思えた。次は左投げでキャッチボールをできるようになって、子どもたちの野球教室に参加することが当面の目標です。それと次の始球式は、マウンドから投げられるようになりたい」。

 最後に「まだまだやる気は残っています、頑張ります」。利き腕を失っても野球に対する情熱は消えていない。

(伊村弘真 / Hiromasa Imura)

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