“自然体”で下剋上へ「仕上げてきた」 ピュアな挑戦者、藤浪晋太郎の胸中【マイ・メジャー・ノート】

マリナーズのマイナーから再出発「勝ち取らないといけない立場」
藤浪晋太郎投手が飛ばしている。
マリナーズのバッテリー組がキャンプインする2日前の11日(日本時間12日)、最速158キロの剛速球をブルペンで披露。「この時期でその球はすごすぎます!」。こう振り返ったのは、チームのブルペン捕手を務めるジャスティン・ノバック氏。他の話題をなぎ倒し、その日は藤浪の剛球がコーチたちの話題の中心になったという。
渡米3年目を迎えた藤浪にとって今キャンプでのプレッシャーは、昨年とは真剣勝負と竹刀の勝負ほどの差があるのではないか。13日(同14日)のキャンプイン初日に右腕は奥底の思いを隠さなかった。
「まずアピールしないといけない立場なので。調整とか言ってられる立場じゃないですし。去年ももちろん競争意識はありましたけど、今年はさらに競争もそうですし、(メジャー契約を)勝ち取らないといけない立場なので。それなりに仕上げてきたつもりではいます」
藤浪は過去2年、メジャー契約を手にしながらも周囲の期待を裏切る形でシーズンを終えた。
2023年、阪神からポスティングでアスレチックスに移籍し4月1日にメジャーデビューを果たした。が、安定性を欠く投球が目立ち、7月半ばのシーズン折り返しでオリオールズにトレードで移籍。新天地でも精彩を欠き、プレーオフの切符を手にしたチームで登録メンバー漏れとなった。2024年は開幕前にメッツと契約も、5試合に登板したオープン戦で0勝1敗2ホールド、防御率12.27の成績で開幕前にマイナー落ち。肩の怪我もありメジャーの扉は開けられなかった。
ウインターリーグでの収穫と覚悟の春
今キャンプに賭ける思いは先の言葉から十分に伝わってくる。藤浪はオフに肩のリハビリを徹底的に行い投球動作の再考に至った。その点の明言は避け”“新たな取り組み“とした。そして、昨秋11月からのプエルトリコでのウインターリーグ武者修行でその成果を見極めている。
「ある程度できた部分とできなかった部分と、課題がはっきりしたので、それをこのオフシーズンで取り組んできました。それを一言ではちょっと難しい。ざっくり言えば『自然な形で投げましょうね』っていう、そんな感じです」
藤浪の持ち味は、常時150キロ台後半を示す剛速球と落差のあるフォーク、そして曲がり幅が違う2種類のスライダー。肩痛も癒え、投球動作解析から得たフォームが今週末からのオープン戦でどんな結果を連れてくるのか、楽しみだ。一方で、ずっと解消できずにいる制球難についてはどう見立てているのだろうか。
「考えすぎて良くなくなる部分もありますし、それを考えないでいいように普段から準備しておくという、そういうトレーニング、ドリルを(オフに)しようと。その辺りを自然にできるように、まるでそういうことを考えないようにっていう取り組みですかね」。
“自然な形”は、メンタルの改革にもつながった。ただ、変わらない意識もある。
「(ゾーンを)あんまり深くは考えてないですね。ターゲットは常に真ん中高め。これは去年、一昨年からずっとそうなので、別にそこは変わってないかなと思います。ゾーンにアタックするっていうことだけかなと思います。(変化球も含め)全部そうです」。
ゾーンを右と左の半分に分けてそれぞれの高低を狙うという「ゾーン2分割」を口にしたのは1年目の5月だった。さらに、スピードについて藤浪はこう話している。
「100マイル出してアウトを取ってくれるのなら毎球100マイル投げますけど、そうではないんで。それをコントロールできてこそだと思います」
この日、全体練習を終えた藤浪は室内ジムで体幹などを鍛える筋力トレーニングでたっぷりと汗を流すと、関係者専用のダイニングで昼食をとった。話しかける者は誰もいない。通訳もまだ現地入りしていなかった。
孤独な姿がいい。ピュアな挑戦者、藤浪晋太郎は強靭な目的意識を持って下剋上の道を踏みしめて行く。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)
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