移籍即日“中心”に…九里亜蓮の主体性は「なかなかすごい」 投手コーチも驚愕の「勇気」

ブルペン入りしたオリックス・九里亜蓮【写真:北野正樹】
ブルペン入りしたオリックス・九里亜蓮【写真:北野正樹】

オリックスに新加入した九里亜蓮の行動に厚澤コーチも“驚愕”

 驚愕するとは、まさにこのことだろう。オリックス・厚澤和幸1軍投手コーチが、海外フリーエージェント(FA)権を行使して、広島からオリックスに移籍した九里亜蓮投手の取った行動に、驚きを隠せないでいる。

「他チームから来た選手が(チームの)輪の中心に立つのは、なかなかすごいことです。輪の中に入ることはできますが。(3度目のブルペンで)222球を投げ込んだこと以上に驚きました」。春季キャンプが行われている宮崎で、いつもは冷静に言葉を選ぶ厚澤コーチが数日前の出来事を興奮気味に振り返った。

 春季キャンプが始まり、まだ1週間も経たないある朝。厚澤コーチに、練習前の九里が「こんなことを、選手に話してもいいですか」と伺いを立ててきたという。「野球人としての心構えでした。内容は明かせませんが、練習する態度や姿勢、心構えのような話ですね。いい話だと思って、僕は『(移籍)1日目であろうが、1年目であろうが、10年目でも関係ない。野球人として、みんなに話してあげて下さい』と、話をしてもらいました」。

 厚澤コーチはさいたま市出身。大宮工業高、国士館大から1994年ドラフト2位(逆指名)で日本ハムに入団。本格派左腕としてイースタン・リーグで2度の最多勝に輝いた。1軍で42試合に登板し2003年に現役引退後は、3年間のプロスカウト、スコアラーを除いて主に1軍の投手コーチを歴任。2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、日本ハム時代から旧知の栗山英樹監督のもと、ブルペンコーチとして「世界一」を支え、オリックスでも3連覇に貢献するなど、豊富な指導歴を誇る。

「日本ハム時代から、数多くの移籍選手を見てきましたが、こんなことをする選手は1人もいませんでした。野球教室に行って野球少年にそんな話はできると思いますが、自分に例えたら絶対に言えません。グラウンドで円陣を組んでもらい、移籍してきてすぐの選手が、しかも年上の選手もいる中であれをやる勇気はすごいことです。話す中身はもちろんですが、行為そのものがすごいんです」

 さらに、厚澤コーチは「野球人の現役の先輩が、後輩にアドバイスをしてくれる。投手コーチじゃないところで、選手同士が発信することでプラスになる要素がたくさんあるんですよ。(昨季の終盤に)怪我明けの宮城(大弥投手)が防御率のタイトルをかけてマウンドに上がり続けた姿と同じように。それを最初からやってくれたんです。長年、ローテを守ってきた選手の発信には説得力があります」と、九里のコミュニケーション能力とリーダーシップに感謝する。

「みんなの前で話すことで、自分自身にプレッシャーをかけているのだと思います」

 厚澤コーチの目は、他の選手にも注がれる。「彼(九里)は投手陣の先陣に立とうと行動してくれたのですが、オリックスの投手たちがその姿を受け入れてくれたということが、非常にうれしかったですね。亜蓮がいてくれることで、投手陣がまとまったのは事実です」。

 広島在籍時の2021年に最多勝に輝いた九里は「まだまだ、野球が下手くそだと思っています。もっとレベルアップしたいという思いで毎日を過ごしています」と控えめで、40歳の平野佳寿投手にフォークを、23歳の宮城にはキャッチボールの心構え、22歳の山下舜平大投手にカーブの握りを聞くなど、謙虚な姿勢を貫いている。

「多分、他の選手に聞きにいきながら(そこで)コミュニケーションを取っているようにも見えます」と厚澤コーチは目を細め「みんなの前で話すことで、自分自身にプレッシャーをかけているのだと思います」と覚悟も感じ取る。先発として「200イニング登板」を掲げる九里の存在は、シーズン前からオリックス投手陣に好影響を与えている。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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