栗原陵矢に教わった「なかった感覚」 “志願”の弟子入りで覚醒…杉澤龍、勝負の3年目

春季キャンプで練習するオリックス・杉澤龍【写真:小林靖】
春季キャンプで練習するオリックス・杉澤龍【写真:小林靖】

オリックス・杉澤が“栗原塾”で得たもの

 チャンスに強い打者の助言で打撃開眼を目指す。オリックス・杉澤龍外野手が、2020年の日本シリーズでMVPを獲得するなど、勝負強い打撃を武器とするソフトバンク・栗原陵矢内野手の打撃理論を取り入れ、打球飛距離を大きくアップさせた。

「栗原さんと一緒に自主トレをさせてもらい、打撃面では僕の考えが全て消されて、これまでにはなかった感覚が生まれたんです。今年は絶対に打ちます」。自信に満ち溢れた表情で前を向いた。

 杉澤は東北高、東北福祉大を経て2022年ドラフト4位でオリックスに入団。長打力と広角に打ち分ける巧打で、プロ1年目はウエスタン・リーグで92試合に出場し、チームトップの38打点を記録するなど勝負強さを発揮した。

 1軍では2023年に2試合に出場しプロ初安打もマークした。飛躍を誓ったプロ2年目は2軍で51試合に出場し、打率.289の成績を残した。ただ、1軍では出場28試合で19打数1安打とチャンスを生かすことはできなかった。

 セールスポイントは、積極果敢な守備。昨年5月1日のロッテ戦(ほっともっと神戸)で「8番・中堅」で先発起用され、初回2死満塁のピンチで、前方への打球をダイビングキャッチするスーパープレーで、先発・田嶋大樹投手を守りで援護した。

「教えてもらったことは、今まで僕がやってきたことと全く逆のことでした」

 今オフの契約更改では、球団から「守備の方では言うことがない。あとは打つ方を頑張ってほしい」と要望が出されるほどで、1軍の出場機会を増やすためには打撃向上が急務だった。本人から「実戦で打撃を磨きたい」と球団にお願いをし、オフには前年の豪州に続いて台湾のウインター・リーグに参戦。球団から2年連続の海外派遣は初めてで「異例でしたが、本人の前向きな姿勢に応えました」と小浜裕一球団本部長から期待を込め送り出された。

 しかしながら、期間中は16試合に出場して51打数7安打の打率.137と結果を残すことはできなかった。「自分と同じような体格の台湾選手のスイングの強さを見て、打撃を変えてみたんですが、バットが出てこないしタイミングも合わなくなって。途中から戻したんですが、噛み合わないまま終わってしまいました」。肩を落として帰国した杉澤だったが、ソフトバンク・栗原の自主トレに参加し、展望が開けたという。

 栗原は杉澤と同じ左打者。2020年の巨人との日本シリーズ第1戦で、菅野智之投手(オリオールズ)から先制2ランを放つなど、4戦で打率.500で最高殊勲選手賞(MVP)に輝いた。昨季は2度、月間MVPを獲得し、今季は「3割、30本」を目標に掲げるスラッガーからもらった助言は、これまでの杉澤の打撃理論を覆すものだった。

「よく『体を開くな』と言われるじゃないですか。でも、体を開かないと手だけで打つしかありません。そうではなく、体を回さないと手は出てこないし、体を回すことでバットが出てくるとアドバイスをもらって。やってみたら右中間にちゃんと(バットで)つかんだ打球が行くようになりました。飛距離も驚くほど伸びました」

 バットコントロールがうまく、どんなボールでも拾える杉澤だが「手主導(の打撃)だから、速い球にも手を先に出しちゃって弱い打球しかいかなかったんです」。器用さも邪魔をしていたことを栗原が教えてくれた。

「教えてもらったことは、今まで僕がやってきたことと全く逆のことでした。『これを絶対にしてはいけない』と教えられ思い込んでいたことが、逆に『こうした方がいいよ』という感じでした」。新たな打撃で勝負の1年に切り込む。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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