超変則左腕が「メチャクチャ怖かった」 名門校の指揮官が抱いた恐怖「寝られなかった」

浦和実戦の指揮を執った智弁和歌山・中谷仁監督【写真:加治屋友輝】
浦和実戦の指揮を執った智弁和歌山・中谷仁監督【写真:加治屋友輝】

智弁和歌山の1番・藤田、初回の二塁打含む4安打

 第97回選抜高校野球大会は28日、大会第10日の準決勝が行われ、第2試合は智弁和歌山(和歌山)が浦和実(埼玉)と対戦。初回に先制点を奪うと最後まで主導権を譲らず5-0と快勝し、7年ぶりの決勝進出を決めた。初回、先頭打者の藤田一波外野手(3年)が左翼へ二塁打。4番・福元聖矢外野手(3年)の右前打で先制のホームを踏み、チームを勢いづけた。

 強力なリードオフマンだ。初回、左翼線にフラフラッと上がった当たりがポトリと落ちると藤田は一気に二塁へ。1死二、三塁から福元の右前打で生還し「本当は捉えて勢いづけたかったんですけど、結果的にヒットで出て、先制できて良かったです」と満足そうに笑った。これでチームは全4試合、初回に先制点。ここまで18回連続無失点だった浦和実・石戸颯汰投手を序盤で攻略した。

 相手左腕・石戸は右膝を顎付近まで上げる独特のフォーム。直球の最速は130キロながら対戦校は「球の出どころが見えにくい」と苦しみ、初出場で旋風を起こす浦和実をけん引していた。智弁和歌山は対策としてボール球の見極めと、中堅から逆方向へ強くて低い打球を打つことを徹底。初回で無失点記録を止めると、3回までに5点を奪った。その原動力となったのが4安打を放った藤田だ。

 誰もが緊張する試合の立ち上がり。チームで最初に打席に立つ男には、緊張を解くためのルーティンがある。構えに入る前、まずバットを顔の前で立てて持ち、バックスクリーンを見る。次にバットの「SSK」のマークを見て、最後に投手を見る。2年春から行っているこの一連の動きで落ち着き、今大会は4試合中3試合で初回に安打を放ってチームを波に乗せている。

浦和実戦に出場した智弁和歌山・藤田一波【写真:加治屋友輝】
浦和実戦に出場した智弁和歌山・藤田一波【写真:加治屋友輝】

「三振しない男」の異名…中谷監督の“完コピ”投手役に感謝

 智弁和歌山の「三振しない男」の異名も持つ。昨秋は練習試合でも三振がなく、広島商(広島)との準々決勝では新チーム発足後、公式戦45打席目で初三振を喫したことが話題になった。「それは全く気にしていません。1打席1打席、しっかり自分のスイングをすることだけを考えています」。この日は2、6回には絶妙なバント安打も記録し4安打。「左対左で打ちづらい投手。打つだけじゃなく、出塁するのが役割なので、この甲子園はそれができている」と胸を張った。

 石戸との対戦が「ムチャクチャ怖かった。関東大会ベスト4で、横浜高校と1点差の試合をしてる投手ですから。あまり寝られなかった」という中谷仁監督。前日の練習では自ら打撃投手を務めた。右と左の違いはあるものの、石戸の独特なフォームを“完コピ”。少しでも攻略の糸口になるようにと約250球を投げた。実際に打席に立った藤田は「完成度が高かった。タイミングの取り方とか、練習になりました」と感謝。その効果は結果となって表れた。

 31年ぶりの春の頂点へ、最後の相手は公式戦19連勝中の横浜だ。藤田は「今までと同じように、センター方向に強いライナーを打つ意識で。チームが勝つために、いいバッティングをしていきたい」と力強く言った。今大会の打率.438と好調な1番打者が、文字通り先頭に立って決勝戦もチームを引っ張る。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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