主砲と激突「これはやばい」 球場に救急車、静まり返るスタンド…覚悟した“引退”の2文字

試合中に激突したDeNAの梶谷隆幸氏と筒香嘉智【写真提供:産経新聞社】
試合中に激突したDeNAの梶谷隆幸氏と筒香嘉智【写真提供:産経新聞社】

梶谷隆幸氏は2014年の試合中、守備で筒香嘉智と激しく衝突した

 DeNA、巨人で18年間プレーした梶谷隆幸氏は入団8年目の2014年に142試合に出場し、39盗塁で自身初タイトルを獲得した。ただこの年、試合中の守備で筒香嘉智外野手と激突。筒香は脳震とうなどで入院し、約1か月離脱するアクシデントもあり、梶谷氏は落ち着かない心境で過ごした時期があったという。

 8月13日の中日戦、初回に大島が放った左中間への飛球の落下地点で中堅・梶谷氏と左翼・筒香が激突。勢いよく走り込んでいた筒香はもんどり打って倒れ、後頭部を地面に強くぶつけた。

「構えたグローブの前に、ゴウ(筒香)が現れたのをめちゃくちゃ覚えています。そのまま引っかかるように倒れて、動かないし、これはやばいと思いました」

 横たわった筒香は意識もうろうとしたまま。グラウンド内に救急車が入り、そのまま病院へ搬送された。その後、意識は回復し、脳振とうと頸椎振とうと診断されたと連絡が入った。

 アクシデントとはいえ、これからの球団を背負っていくであろう若き大砲に大きなダメージを負わせてしまった。「程度は違いますけど、栄村さんと吉村さんが激突した出来事を思ってしまいました。もし、ゴウが野球をできなくなったら、俺も野球は続けられないと思っていました」。

 自身が生まれる1か月半前の1988年7月、巨人の栄村忠広と吉村禎章が外野の守備で激しく交錯。吉村は左膝の靭帯4本のうち3本が断裂するなど、選手生命の危機に陥った(約1年後に復帰)。試合中の大事故として語り継がれており、梶谷氏は自身の立場に置き換えて心痛していたという。

「筒香ありがとう、振らせた打法です」

「LINEもしていましたし、お見舞いにも行きました。ゴウは『大丈夫です。気にせずにプレーしてください』と言ってくれたんですけどね」。心中穏やかでないまま、グラウンドに立ち続けた。

 8月16日の阪神戦でアクシデント後初アーチ。ベンチでハイタッチを終えるとテレビカメラに向かい2度、指を2本立てた後に手を広げた。「2・2・5(筒香)」のサインだった。「やると決めていたわけでもなく、ふいにやったんです」。本塁打談話として広報には「筒香ありがとう、振らせた打法です」と伝えた。

 筒香は退院後、2軍で調整している間も「頭がフラフラする」「気持ち悪い」などとこぼしていたという。1軍に復帰したのは救急搬送から約1か月後、9月6日の広島戦。梶谷氏は「気持ちが休まることはなかったので、戻ってきたときは本当にホッとしました」。10年以上が過ぎた今でも、生々しい記憶として脳裏に焼き付いている。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY