ロッテ美馬が明かすFA宣言の真実 突き動かした愛息への想い「あのまま仙台にいたら…」
父となり、初めて迎えた2020年シーズン「当たり前のように両手で野球をしていたけど…」
2020年シーズンは、ロッテ美馬学にとって忘れがたい1年となった。プロ10年目。野球を始めてから20年以上が経ち、野球との向き合い方が変化。当たり前のように野球ができる幸せを、改めて噛みしめることになった。
新型コロナウイルスが世界的に感染拡大し、NPBは開幕延期を決断。無観客試合としてシーズンが始まったのは、当初の予定より約3か月遅れの6月19日だった。例年ならば遠征で家を空ける4月、5月を、自主トレーニングでコンディションを整えながら自宅で過ごした。
「毎日、朝起きて、子どもと遊んで、昼過ぎから練習に行って、という生活をしていました。僕の中ではメチャメチャ充実した日々で、いい気持ちの切り替えになりました」
オフに9年を過ごした楽天からロッテにFA移籍した右腕は、新天地でのキャンプ中、人知れず「野球人生最大の壁」にぶち当たっていた。投球フォームを探る迷路にはまり込み、思うようなボールが投げられず。さらには、右脇腹を痛めて、内定してた開幕投手も白紙状態に。そんな最中に訪れたステイホーム期間。「バグっていた」という美馬の頭と心をクリアにしてくれたのは、愛妻アンナさんと2019年10月に生まれた愛息だった。
「好きな野球の練習ができて、楽しい家族と一緒に過ごせる。僕にとっては大切な充電期間になりました」
2019年10月11日。元気な産声を上げて生まれてきた我が子には、右手首から先がなかった。都内近郊での出産に運良く立ち会えた美馬は「最初は手を握っているだけだと思っていたんです」と、その日の様子を振り返る。
「出産予定日が10月16日だったので、僕は一度仙台に帰る予定だったんです。そしたら、僕が帰る前の日に陣痛が来て。タイミングが良かったんですよ。いざ、生まれてきたら、よくよく見ると右手がない。多分、僕が最初に気付いたんだと思います。すぐに妻が息子を見て『手がない』って言ったら、そこからみんな大慌て。脈を測る機械や肺の機能を調べる機械がうまく作動しなくてドタバタするし、看護師さんの手も震えているし。でも、僕は意外と冷静だったんです。子どもは元気に泣いているから大丈夫だろう。それより気が動転しているであろう妻の方が大丈夫かなって。その時は落ち着いていましたけど、病室に帰ってきたら大号泣でしたね」