智弁学園主将、屈辱の“目の前の敬遠”で見せた意地 自分を出した唯一の打席
山下陽輔が率いる2016選抜V校は大会4日目に大阪桐蔭と激突
5年ぶりの王座奪還へ。智弁学園(奈良)には圧倒的なリーダー力を持つ主将がいる。山下陽輔内野手は練習中、とにかく動き、声をかけ、耳を傾ける。自分のことは後回しだ。秋は公式戦9試合で打率はチームトップの.536、本塁打2本と智弁の4番として結果も十分。マウンドから一番近い三塁を守り冷静にナインに目を配る姿が印象的だ。【市川いずみ】
いわゆる背中で引っ張るタイプだが、これまで、主将経験はない。山下に“洞察力”が身についたのは、くしくもコロナ禍が影響していた。
「緊急事態宣言中に読書を始めました。ハマりましたね」。お気に入りは東野圭吾の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』だという。悪事を働いた3人が時空を超えて悩みを持つ人の手紙に返事を書き、誰かの為に何かを真剣に考え、他者とのつながりを考えていくというストーリーだ。
「いろんな伏線があったので、これが伏線やったんや!ってところがおもしろかったです。小説を読むことで主観な見方しかできなかったのが客観的になって、周りを見る力はついたと思います」
山下の変化はチームメートも敏感に感じ取っていた。
エースの西村王雅投手は「まず周りから入りますね。自分ばっかりじゃなくて、まず周りのこと考えて最後に自分」と話し、「めっちゃいい(キャプテン)と思います!」と大絶賛だ。
読書だけではない。昨年9月に新チームで初めて臨む公式戦を前に足を負傷した山下は別メニューとなった。その時、指揮官にかけられた言葉が心に残る。
「キャプテンなんやったらグラウンドには出て来いって。その時に気づいたのが、キャプテンやったら常にチームを見ておかないとあかんなって」
智弁学園の主将としても大先輩の小坂将商監督だからこその指摘だった。
チーム全体を見る姿勢はバッティングにも表れている。先ほど挙げた打率、本塁打数の他に目立つのが三振の少なさだ。9試合28打数で、三振はわずかに1。山下は小坂監督が徹底している「つなぐ意識」を持っている結果だと分析する。