決勝で敗れても「何ひとつ後悔はない」 智弁学園・前川の完全燃焼を叶えた“兄の叱咤”
今春の選抜大会では準々決勝で4の0、試合後は涙に暮れた
涙に暮れた春の選抜から5か月。日本一には届かなくても、晴れやかな表情で夏を終えた。史上初の“智弁対決”となった第103回全国高校野球選手権の決勝。智弁学園(奈良)の主砲・前川右京外野手(3年)は3安打を放つも、2-9で智弁和歌山に及ばなかった。悔し涙を流すナインたちに寄り添い、声をかけ続けた試合後。会見に臨み、淀みない声で言い切った。
「やり残したことがない。何ひとつ後悔はないので、とてもいい高校生活を送れました」
初の悲願をかけた決戦は「1番・左翼」で先発出場。初回の第1打席で中前打、5回2死での第3打席では右前に運んだ。7回の第4打席にも右翼線への二塁打を放ち、3安打の固め打ち。勝利にこそ導けなかったが、横浜(神奈川)との2回戦以来となる1番起用にバットで応えた。
1年夏から4番も務め、チームの主軸を担ってきたが、今年3月の選抜大会では不甲斐なさだけが残った。準々決勝の明豊(大分)戦では、得点圏で打席が回ってきた3度とも凡退。チームも4-6で敗れ、試合が終わると同時に涙を流した。野球人生を振り返ってみても「あの時が1番苦しかった」。どん底にいた時、兄・夏輝さんの一言に救われた。
「お前が試合に出て苦しんでいるのは、全然大したことじゃない。試合に出れず、メンバーにも選ばれずに苦しんでいる人たちのことを考えて、もう1回野球に対する思いを変えて取り組め」
厳しい言葉に背筋が伸びる。「自分は苦しんでいる場合じゃないんだと。考えを変えて、野球に取り組むようになりました」。単なる主軸のひとりでなく、メンバー外の選手らの思いも背負って戦っていることを改めて自覚した。