「仮に試合に出ていなくても…」欠かさない捕手練習 26歳内野手が見せる“献身”
佐藤龍世が初の3番で初三塁打…松井監督「3番ではなく“3番目”」
■西武 3ー0 ロッテ(25日・ベルーナドーム)
いぶし銀の男が脚光を浴び、お立ち台に上がった。西武の佐藤龍世内野手は25日、本拠地ベルーナドームで行われたロッテ戦に「3番・三塁」で出場。プロ5年目・26歳で初の3番抜擢だったが、初回の1打席目に右中間を抜く先制適時三塁打を放ち、期待に応えた。三塁打を記録したのもまたプロ初だった。
初回1死三塁の先制機で右打席に入った佐藤龍の頭に、“ヒット”はなかった。「外野フライを打ちにいきました。“外野フライが最高”くらいの気持ちでした」と明かす。「あの場面で最悪なのは内野ゴロ、内野フライ、三振の3つ。仮にインコースの球に詰まっても、前進守備の内野の頭は越したいと考えていました。しっかり頭を整理して割り切れた結果、最高の形につながったと思います」と説明した。
ロッテ先発の左腕CC・メルセデス投手に対し、フルカウントから外角低めの138キロの速球を、右手首を返さず巧みに逆方向の右中間へ運んだ。打球が転々とする間に三塁走者の岸潤一郎外野手が先制のホームを駆け抜け、佐藤龍自身も三塁を陥れた。ここで三塁まで進んでいたことも、続く4番デビッド・マキノン内野手の左前適時打で2点目のホームを踏むことにつながった。松井稼頭央監督は試合後、「3番ということで、かなり緊張していたと思いますけれど、そこで1本、そしてサードまで行ったことも大きかった。ナイスバッティング、ナイス走塁だったと思います」と称賛した。
もっとも、松井監督は「3番ではなく、“3番目の打者”。場合によっては送りバントも、いろいろなことができる3番目です」と強調。主砲の中村剛也内野手、今季12試合で3番を務めている鈴木将平外野手らが体調不良で相次ぎ戦列を離れる中、苦肉の策ではあったが、見事に役割を果たした。佐藤龍自身は「最初はびっくりしましたが、やったろか、と思いました。(首脳陣からは打順について)何も言われませんでした。無言の圧でした」と笑った。
日本ハムから昨オフトレードで復帰「もっともっと恩返ししたい」
2018年ドラフト7位で富士大から西武入りしたが、2021年8月に故郷の北海道を本拠地とする日本ハムへトレードで移籍。昨オフ、松井監督の就任1年目を前に、山田遥楓内野手との交換で西武復帰を果たした。「まだまだです。チームに迷惑をかけてきているので、監督、コーチへもっともっと恩返ししたい」と語る。「チームが勝てればいい。サードが誰であろうと……もちろん、自分なら最高ですけれど、仮に試合に出ていなくても、監督の笑顔が見られれば、それがいいです」と殊勝だ。
今季は開幕からずっと1軍に帯同しているが、出場機会は決して多くない。内野登録だが、“第3の捕手”として待機するという秘めた役割があり、毎試合前にレガース姿で捕手としての練習も行っている。この季節の日中、猛暑の中でレガースを装着して練習するのは、尋常でなく酷なはずだ。捕手として1軍の試合に出場したことはまだないが、2軍のイースタン・リーグでは今季も1軍登録のまま2試合でマスクをかぶっている。それでも「それが自分の役目というか、自分が1軍にいる意味だと思うので、はき違えないように、今後も準備していきたいと思います」と愚痴ひとつこぼさない。
プロの1軍戦で初めて三塁打を放ち、「疲れました!」と会心の笑みを浮かべた佐藤龍。チームのために献身的な日々を送る男にとって、ご褒美のような試合となったかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)