佐々木麟太郎に一発がなくても…甲子園決めた花巻東 2年生右腕の快投が証明した“成熟”

岩手大会決勝で完封した花巻東・小松龍一【写真:羽鳥慶太】
岩手大会決勝で完封した花巻東・小松龍一【写真:羽鳥慶太】

甲子園がかかる決勝戦…先発した背番号18の2年生・小松が17奪三振で完封

 第105回全国高校野球選手権の岩手大会は26日、盛岡市のきたぎんボールパークで決勝戦を行い、花巻東が盛岡三を10-0で破って2019年以来4年ぶり、11回目の夏の甲子園出場を決めた。この試合で先発した背番号18の小松龍一投手(2年)は、17奪三振で完封という快投。県大会では5試合中4試合でリードを許した場面があった強豪は、苦しい戦いの中で着々と成長し、甲子園で戦える戦力を備えつつある。

 9回2死三塁、打席の鈴木暖人内野手(3年)から渾身の直球で三振を奪った小松は、指を1本天に突き上げた。一塁からサングラスを外した佐々木麟太郎内野手(3年)が突進してくる。あっという間にマウンド付近でもみくちゃになった。甲子園進出を決めた喜びに酔った。

 前日の夕方、佐々木洋監督は小松に決勝戦での先発を告げた。今大会、2試合の登板はいずれもリリーフだったが「いい具合で決勝まで休ませながら来られた。これなら頭から行ける。なんとか前半を抑えたい」という判断だった。

 ただ、小松の受け止めかたは違った。「悪い想像を昨日はしてしまって……」。自分のせいで、3年生の夏が終わってしまうのではという想像ばかりが頭を駆け巡ったのだ。

 小松の意識を、試合へと切り替えさせたのはベンチ入りしていない3年生からの励ましだった。「皆さんが声をかけてくれて吹っ切れた」。そうなれば140キロを超える直球とスライダー、フォークのコンビネーションで盛岡三打線を圧倒した。毎回の17奪三振、許した安打は単打が3本だけだった。

花巻東・佐々木麟太郎【写真:羽鳥慶太】
花巻東・佐々木麟太郎【写真:羽鳥慶太】

もはや佐々木麟太郎だけではない…「負けないチームになってきた」

 急成長の途上にある。小松がベンチ入りするようになったのはこの春のこと。さらに飛躍のきっかけが5月にあった。沖縄での招待試合で、春の沖縄県大会を制したばかりのウェルネス沖縄を2-0で完封した。

「去年の秋までは力に頼っていくスタイルだったのが、技術の大切さに気づきました」。力勝負一辺倒ではなく、変化球を交えて時には“抜き”ながらイニングを重ねる、いわばピッチングに目覚めたのだという。

 この夏の花巻東は、どうしても高校通算140発の強打を誇る佐々木麟太郎内野手(3年)が注目を集めた。ただ佐々木麟は大会前から背中の違和感に悩まされ、満足のいく調整をできないまま大会を迎えた。大会では14打数5安打で、本塁打はなかった。父でもある佐々木監督が「あのレベルなんです」と言う中で、周りの選手たちが大きく成長した。

 この日「4番・左翼」に入った北條慎治投手(3年)は、初回無死満塁から右中間に先制の2点適時打。盛岡一との準決勝では5回1失点と好投した。他にも盛岡誠桜との準々決勝で7回1失点完投した葛西陸投手(2年)、遊撃を守る熊谷陸内野手(3年)ら、多士済々のピッチングスタッフを誇る。

 佐々木監督は「このチームは強いとは思っていないのですが、負けないチームになってきたのかな」という。準決勝までの4試合は、いずれもリードされる場面があった。それが決勝は初回、2回と3点づつを奪って主導権を握る横綱相撲。完成度を高めている何よりの証明だろう。

 7月27日は佐々木監督の48歳の誕生日。決勝の前に指揮官は「良かったら誕生日プレゼントを、勝利でお願いします」とナインに言い、その通りに胴上げされた。「いい選手に囲まれて幸せです」。夏の物語は、甲子園へと舞台を移す。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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