ノーアーチでも…晴らした悔しさ 高校140発の佐々木麟太郎が体現した「岩手プライド」
花巻東の佐々木麟太郎、自身初となる夏の甲子園へ
岩手山に姫神山、そして南昌山も望める盛岡市のきたぎんボールパークで26日、第105回全国高校野球選手権の岩手大会決勝が行われた。自らを育み、大きく成長させてくれた故郷への思いを何度も口にして、優勝を噛みしめる佐々木麟太郎内野手(3年)の姿がそこにはあった。
「岩手県を勝ち抜かせてもらい、その代表として甲子園に行く。岩手県の代表としてのプライドを持って戦っていきたい」
岩手大会は、厳しい戦いの連続だった。準々決勝までの3試合いずれもが、先取点を奪われる劣勢だった。水沢商との3回戦は、中盤まで2点のリードを許し、延長11回のタイブレークまでもつれた。盛岡一との準決勝も、中盤6回に一挙4点を奪われて一時は逆転を許す重苦しい試合運びとなった。麟太郎自身も大会直前からあった背中の違和感によって、スタメンから外れる試合があった。それでも、勝ち切った。花巻東としては4年ぶりの夏切符。麟太郎を含む3年生にとっては、初めての夏の甲子園出場だ。
「2年間、悔しい思いをしてきたので、今年の夏にかける思いは強かった。岩手大会は苦しく、厳しい試合が多かったですけど、勝ち切れたことが一つの評価だと思います」
盛岡三との決勝では、6点リードの4回、外角のスライダーに対して「合わせる形になった」が、持ち前の柔らかなバットコントロールでレフト前へ運んで適時打を放った。
「打撃の状態が上がり切らずに臨んでいましたけど、チームが勝つこと、得点をもたらすことしか考えていなかった」
秋春夏、3季連続で岩手の頂点へ…新たなシンボル球場で“初代王者”に
どれだけ優位な試合展開でも、決して気持ちを切らすことはなかった。「岩手を勝ち抜く」。ただその一心で、バットを振り続けた。大会を通じては、ノーアーチに終わった。「自分自身の武器だと思っている」という打撃を最大限に生かし切れなかったことを指して、麟太郎は個人的な評価を「点数をつけられない内容だった」と振り返る。悔しく、忸怩たる思いだったはずだ。それでも、チームとして勝ち抜き、秋春夏と3季連続で岩手の頂点に立ったことを素直に喜ぶ。
「チームに迷惑をかけましたし、みんなに助けてもらってばかりだった。仲間に感謝したいと思います」
今年4月に開場となったきたぎんボールパークで、夏の岩手大会が開催されたのは今年が初めてだ。言わば、花巻東は「初代王者」となった。
「岩手県としても記念の、そして想いのある大会だったと思うので、そこで初めての優勝を飾ったことは誇りに思います。チームとしても、自分としても、そして岩手県としても、ここからまだまだ新たな歴史を作れると思うので、甲子園では岩手県代表としてのプライドと情熱を持ちながら、チャレンジャーとしてやっていきたい」
自身初となる夏の甲子園では、ベストパフォーマンスを誓う。決勝の熱量と盛夏の香りが広がる球場をあとにする麟太郎に、打撃の状態を訊ねると彼はニコッと笑った。
「大丈夫です」
(佐々木亨 / Toru Sasaki)