開幕2か月で経験した“天国と地獄” 支配下登録で「ボロボロ」も…評価される能力

広島・中村貴浩【写真:真田一平】
広島・中村貴浩【写真:真田一平】

育成ドラフト2位中村貴浩、対策ができていない中で届いた支配下登録

 広島の育成ドラフト2位・中村貴浩外野手が秘めるポテンシャルは、底知れないものがある。入団時は新井貴浩監督と同じ“名前”で話題を集めると、入団後は持ち前の打力をアピール。開幕からわずか2か月の5月17日に支配下登録されると、1軍で初安打を記録。将来のクリーンアップを目指し、コーチと二人三脚で鍛錬を重ねている。

 中村貴は福岡の九州産業大出身。3年秋に打点王と本塁打王に輝いた長打力がスカウトの目にとまり、育成で広島に入団した。思い切りの良いスイングを武器にウエスタン・リーグで躍動。支配下を勝ち取るまでの34試合で、リーグ3位の35安打、3本塁打、チームトップタイの20打点を記録し、5月19日に1軍昇格を果たした。

 19日の敵地・阪神戦では「1番・右翼」で昇格即スタメン。第1打席で先発・青柳の初球を振り、もう少しで本塁打という大飛球を放った。23日の中日戦ではプロ初安打。翌日には初打点を記録し、順調にステップを踏んでいるように見えた。しかし以降は快音を響かすことができず、三振数も増加。6月5日に2軍調整が決まった。

 入団から中村貴の打撃を見守る福地寿樹2軍打撃兼走塁コーチは「春先は無欲のまま持ち味を発揮し結果を残していました。ただ、対戦を重ねるうちに相手の攻め方が変わり課題が浮き彫りになってきました」と振り返る。内角への速球と外角への変化球が増え、外の落ちる球を気にするあまり、次第にバットの振りが鈍くなっていった。

 支配下登録の朗報が届いたのはちょうどその頃。「悪循環にハマりかけた状態……対策ができていない中で1軍が決まりました」と、開幕からわずか2か月での1軍昇格は、福地コーチも不安を隠せない中での出来事だった。

2軍には「ボロボロの状態で戻ってきました」

 1軍昇格から17日後、2軍に戻ってきた中村貴を見た福地コーチは「ボロボロの状態で戻ってきたな」という印象を抱いたという。「完全に崩された打席がほとんどでしたから……ただ、そんな中でも安打を打ったことは自信にしてほしいですね」と悪戦苦闘を続けた23歳を気遣った。

 2軍降格以降は、本来の打撃を取り戻すことを最優先に指導を続けている。「ようやくフラットな感じになってきました。貴浩は本塁打を打つ力を持っているだけに、将来、1軍のクリーンアップを打ってほしいと思っています。まだまだ荒削りですが、それが貴浩の魅力でもありますから」と、高いポテンシャルに期待をかけている。

 力強いスイングを心がけさせる一方で、ある課題を与えている。「打率を意識するように伝えています。貴浩は意外と器用なんです。左前にもちょこんと打てる。打率を残していれば、打席で気持ちの余裕が生まれ、それが長打を狙うスイングにつながります」と、安定した打率を維持することが、復活の近道になると見ている。

 入団時につけていた背番号は123番。2か月で背番号は2桁の97番に変わった。ただ、背番号が変わった日から本塁打は1本のみ。持ち味の思い切りのよいスイングを取り戻すことができるか。経験した悔しさも糧にしながら、首脳陣の期待を背負い前進する若きスラッガーの巻き返しに期待したい。

(真田一平 / Ippei Sanada)

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