山本由伸に揃う“エースの条件” 井口前監督が考えた作戦も…頓挫させた最大の強み
阪神、オリックスがリードするペナントレース…両軍が誇る投手力に注目
今年のプロ野球は、16日にセ・リーグで阪神が優勝マジックを点灯させた。20日時点で2位・広島と7ゲーム差。ペナントレースから頭一つ抜けたことは確かだ。パ・リーグを見てみると、リーグ3連覇を狙うオリックスが2位・ロッテに7.5ゲーム差をつけて首位を走る。こちらもやや差が開いてきた印象だ。
オリックスと阪神の共通点は、何と言っても盤石な投手陣だろう。阪神は12球団トップのチーム防御率2.72を誇り、オリックスも2.83でトップ。いずれも先発ローテーションには頼れる柱が揃い、救援陣も層が厚い。そこで昨季まで5シーズン、ロッテを率いた野球評論家の井口資仁氏に、両チームで注目の投手とエースの条件について聞いてみた。
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前半戦は混戦模様だった今季のプロ野球ですが、後半戦を迎えて、連勝したチーム、連敗したチームと大きく明暗を分けました。10連勝した阪神は16日の広島戦に勝利し、早くも優勝マジック29が点灯。パ・リーグはオリックスが3連戦を2勝1敗ペースで終え、着実に貯金を伸ばしています。ご存じの通り、どちらも投手力が光るチーム。それは今シーズンに限ったことではありませんが、計算できる先発投手が複数いることが何よりも大きいでしょう。
阪神はソフトバンクから移籍してきた大竹耕太郎を筆頭に、伊藤将司、才木浩人が安定した活躍を見せています。そこに今季から加わってきた村上頌樹が加わる形。中でも、3年目・村上が誇る抜群の制球力は目を引きます。制球力の良さは、勝てる投手の鉄則とも言えるでしょう。
メジャーを見ても、例えば15日(現地14日)ではシャーザー(レンジャーズ)がストライクゾーン一杯を攻めるコントロールの良さを見せつけ、さすがの大谷(翔平)もお手上げでした。いくら質のいいボールを投げても、コントロールが悪ければだめ。制球力の良さは好投手の必須条件です。
阪神・村上頌樹は「四球で崩れることがない」
村上は16試合を投げ終えた時点で(15試合に先発)、与四球がわずか13。さらに与死球、暴投がゼロという素晴らしさです。四球で崩れることがないということは、長いイニングを投げられることにもつながり、ベンチはある程度の計算が立てられる。思ったほど勝ち星が伸びていないのは打線との相性もあるでしょう。
誰もが打ちづらいと話すのが、カット気味の真っ直ぐ。いわゆる、真っスラと呼ばれる独特の球です。楽天の岸(孝之)も調子のいい時は真っ直ぐが最後、カットのような変化をします。これはしっかりと中指がボールに引っかかっているから起こる現象なので、投手によっては調子を見るバロメーターにしている人もいる。村上もしっかりと自分のフォームで投げられているからの真っスラなのだと思います。
ファームでは2年連続で最優秀防御率と最高勝率のタイトルに輝き、今季は満を持しての開幕1軍。大卒選手ではありますが、ファームでしっかり土台作りをしたことが今季の活躍に繋がっているのかもしれません。とは言え、1軍とファームではやはり差はあります。今季1年間ローテーションに入って投げられることは本当にいい経験になるでしょう。チームとしては、この先、先発ローテの中心になることを期待しているでしょうから、ここからの成長もまた楽しみです。
オリックスは、やはり山本由伸に尽きるでしょう。今季は右足に乗るタイミングを変えたので、どうなることかと思っていましたが、いざ始まってみれば相変わらずの素晴らしい投球でした。山本は持ち球も全て素晴らしいですが、何よりもいいのは強気にドンドン攻めてくるところ。対戦する立場としては、そこが一番嫌だと思います。
基本として、山本も制球力が素晴らしい。若月(健矢)と組む時は特に、強気に加えてインコースもうまく使ってくる。そこでポンとカーブで抜いたり、フォークで落としたり、打者はタイミングが取れないうちに打席を終えることになってしまいます。なので、結局は早いカウントから振れる球はどんどん振っていく方がいい。かと言って、簡単に捉えられる球ではありませんが(苦笑)。いい投手の条件が全て揃っていると言ってもいいでしょう。
監督時代に考えた山本由伸の攻略法「獲れるのは最大2点」
16試合を投げ終えた時点でクオリティスタート(6回以上自責点3以下)が15試合。100球以上を投げる体力がありますし、何よりローテーションに穴をあけることがない。本人としては目標は高く、中4日でも中5日でも投げられる状態を作っているのではないでしょうか。メジャー球団のスカウトが多数、視察に訪れているようです。自分の投球ができれば、間違いなくメジャーでも活躍するでしょう。このオフにもポスティング制度を利用したメジャー移籍が噂されますが、これは球団との話し合いで決まること。どういう展開になるか分かりませんが、山本のような投手の存在があるからこそ若い選手達も意識高く野球に取り組めているのだろうと思います。
エースの条件は何か。僕はまず、ゲームを作れること、長いイニングを投げられること、かつ1年間ローテーションを守り抜けること、だと考えています。そこに成績が加わり、貯金を多く作れる投手が真のエースでしょう。さらに言えば、ここぞという時のエース対決に勝てる投手。カード頭のエース対決で、いかに最少失点で勝てるか。5番手、6番手を相手に投げて10勝するのは当然のこと。エース対決で勝てないと何の意味もなしません。
エースと言われて思い浮かぶのは、田中将大であり、松坂大輔であり、ダルビッシュ有であり。存在感があり、対戦相手が名前を見ただけで、この投手が来たら打てない、と思うような投手。現役の頃、ダルビッシュと対戦する日は打席で何もできないことだけは避けたかったので、全打席でヒットを狙うのではなく、四球1つとヒット1本打てればいいと、なんとか出塁することを考えていました。
今の現役では、やはり山本がそういう存在になっています。監督の立場としては、山本が投げる試合は勝ち星の計算が立たない。エースをぶつけてガチンコ勝負を仕掛けるのか、あるいは他の2試合で勝つことに専念するのか。山本から獲れるのは最高でも2点と考え、その2点をどうやって先制するか考えます。彼の場合、深いカウントまで持ち込んで球数を投げさせても、疲れることがない。気が付いたら7回、8回まで投げています。だから、3球で終わってもいいから、早いカウントからどんどん振るように指示を出すわけですが、山本が強気で攻めてくるので作戦を遂行する前に追い込まれてしまうのです。
シーズンは残すところ30試合強となってきました。ここからエースの真価が問われる試合が多くなります。エースと呼ぶに相応しい投手は誰か。エースの資質を持った若手投手は誰か。そんなところにも注目しながら観戦を楽しんでみてください。
(佐藤直子 / Naoko Sato)