監督室で小学生の漢字テストの採点 慶応107年ぶりV導いた“モリバ”の素顔

甲子園を終え、慶応高グラウンドで取材に応じた森林貴彦監督【写真:徳原隆元】
甲子園を終え、慶応高グラウンドで取材に応じた森林貴彦監督【写真:徳原隆元】

森林監督は幼稚舎教諭を務め、現在3年生の担任を務めている

 第105回全国高校野球選手権で、慶応(神奈川)が1916年の第2回大会以来、107年ぶり2度目の甲子園優勝を果たした。チームを率いた森林貴彦監督は、慶応幼稚舎(小学校)の教諭の肩書きを持ち、現在3年生の担任を務める。小学生から“モリバ”と呼ばれる50歳の素顔に迫った。

 森林監督の1日は長い。月曜日から金曜日は朝6時45分に東京・広尾にある幼稚舎に出勤。授業を行い、放課後に子どもたちと遊び、神奈川・日吉に向けて移動。午後4時頃に到着すると、そこから高校生の練習を指導する。練習が終われば監督室にこもり、帰路に就くのは午後10時過ぎになることも。その頃には選手もコーチも誰もいない。「帰るのはいつも断トツで遅いですね。あそこ(監督室)が書斎みたいな感じなので、漢字テストの丸つけをしたりもしています」と笑う。

 幼稚舎は6年間クラス替えがなく、同じ生徒を担当する。最初に担任を持ったのは2003年。2012年から高校野球部の助監督、2015年から監督を務める傍ら、すでに3度卒業生を見送った。「生徒には、ずっと“モリバ”って呼ばれてますね。最初の子たちはもう26歳とか27歳になったかな」と目尻を下げた。

 小学生と高校生。同じ1日の中で、同じ“教える”でも、当然アプローチは全く異なる。森林監督は「違うからこそ切り替えられるし、飽きずに続けられるんじゃないですかね。大変というより楽しんじゃっています」と話す。睡眠時間は平均5時間。ハードな毎日でも、“二刀流”を続ける理由がそこにある。

慶応・森林貴彦監督【写真:徳原隆元】
慶応・森林貴彦監督【写真:徳原隆元】

小学生を教える醍醐味は「劇的な成長、0が1になる瞬間に立ち会える」

「小学生は“できない”が“できる”に変わっていく瞬間が多い。縄跳びとか九九とか、先週まで全然できなかったことができるようになっている。劇的な成長というか、0が1になる瞬間に立ち会える。6年間見ていると、1人1人の0から1に、かなりの数、立ち会える。それが小学生の、しかも6年間見る醍醐味じゃないですかね。高校生は“それなりにできる”が“もっとよくできる”に変わっていく。それもまた、おもしろいですよね」

 土日に幼稚舎の行事があれば、高校の練習は欠席。逆に平日に公式戦が入れば、幼稚舎の授業を休むことも。「本当に色々な方のご協力、ご理解があってやれているというのはあります。今回も周りの皆さんが喜んでくださってありがたいです」と改めて感謝の思いを示した。

 部員たちは森林監督について「選手のことを第一に考えてくれる」と口を揃える。「エンジョイ・ベースボール」を掲げ、高校野球の固定概念を変えようと挑み、ついに頂点にたどり着いた。最高の形でユニホームを脱ぐ3年生へ「『これを人生最高の思い出にしないでくれ』という話はしました。これを超えるワクワク感を感じながら仕事をするとか、そういう風になってほしい」と願う姿には、深い深い愛情がにじんでいた。

(町田利衣 / Rie Machida)

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