“おしゃべり”で成長導き日本一支えた元中日エース 挑戦決意した侍J新指揮官からの助言

トヨタ自動車でテクニカルアドバイザーを務める元中日の吉見一起氏【写真:伊藤賢汰】
トヨタ自動車でテクニカルアドバイザーを務める元中日の吉見一起氏【写真:伊藤賢汰】

都市対抗で優勝したトヨタ、テクニカルアドバイザーとして支えた吉見一起氏

 東京ドームのマウンドにできた赤い歓喜の輪を見つめ、噛み締めるように拳を握った。今年7月の都市対抗野球で、7年ぶり2度目の優勝を果たしたトヨタ自動車。際立った投手力を支えたひとりが、テクニカルアドバイザーを務める元中日エースの吉見一起氏だった。「僕の力ではなく、選手たちの頑張りです」と表情を崩す。2度の最多勝を誇るプロの慧眼が、後輩たちの強力な援軍になったのは確かだった。

 2020年限りで現役を引退後、指導者としてのキャリアを思い描いた。中日時代の大先輩である井端弘和氏(現侍ジャパントップチーム・U-15監督)から「プロ野球以外も見ておいた方がいい」と助言を受け、古巣のトヨタに「勉強させてください」と志願。チーム側は快く受け入れてくれ、2021年からテクニカルアドバイザーの肩書きをもらった。

 グラウンドでも、ベンチ裏でも、スマホのLINE上でも、選手と“おしゃべり”する。指導する日は、投手陣全員と必ず一度は会話するようにしてきた。「言葉のキャッチボールはするようにしています。アドバイスはしますけど、それは向こうから求められた時だけです」。選手と向き合いながら、自分なりの指導法を見出してきた。

 まだ新米アドバイザーだった1年目、当時ドラフト候補の吉野光樹投手(現DeNA)を指導している時だった。「最初は自分から試合後の反省を伝えていました。でも、それって一方通行だなと感じて……」。自分の役割は、ティーチング(教え込むこと)ではなく、コーチング(導き、引き出すこと)。「とにかく本人にしゃべらせようって思ったんです」と方向性を定めた。

 ミスしたり悩んでいたりする選手に「こうしろ」と勝手な答えを押し付けるのは簡単。「自分で考えてみろ」と成長を促すふりをして放任するのも簡単。ただいずれも、本当に選手の血となり肉となるのかは疑問だった。だったら、“自然と考える状況”にする。それが、おしゃべりだった。

滲む充実感「意識、意図をもってやろうと、ずっと選手たちに言ってきた」

 選手は自分の思いや感覚を話す時、きちんと理解してもらおうと伝え方を考える。必然的に頭の中が整理され、ミスや不調の原因を客観視することにもつながる。「試合終わりに『どうだった?』って必ず聞くようにしています。要は言語化させる。選手に考えさせて、選手の言葉を認めてあげて、僕が付け足してあげる」。決して否定せず、成長へのヒントを一緒に考えてきた。

 2021年の都市対抗で初戦敗退を喫したチームは、翌2022年の日本選手権で優勝。そして今年、社会人最高峰の舞台で黒獅子旗を手に入れた。初戦から準決勝まで全てわずか1失点と盤石の勝ち上がりで、決勝も最後までリードを許さなかった。

 決勝の日、U-12ワールドカップのため侍ジャパンの投手コーチとして台湾にいた吉見氏は、スマホの試合速報を頻繁に確認し、後輩たちの悲願を異国で喜んだ。自らの指導スタイルが結果となって表れた瞬間でもあり「意識、意図をもってやろうと、ずっと選手たちに言ってきたのは良かったかな」と充実感が滲む。

 もちろん、指導に終わりはない。投手の数だけ悩みがあり、導き出す答えもある。「考えてプレーしたら反省が出てくる。それを振り返って、克服していく。色々な気づきも出て、成長していく。それが一番大事だなと思う」。未来ある若手たちとの野球談義は、指導者としての自らも成長させてくれる。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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