練習せず漫画喫茶→大学中退 苦心の食生活で痛風発症も…遠回りで得た“財産”
西武・岸潤一郎、恵まれたNPBの世界「この状況に慣れることのないように」
10月26日に行われたドラフト会議で、独立リーグからは支配下6人、育成17人の過去最多23人が指名を受けた。決して恵まれているとは言い難い環境から掴んだNPBの切符。順当ではない野球人生だからこそ得た経験もある。2019年のドラフト8位で、四国アイランドリーグplus(IL)・徳島インディゴソックスから西武に入団した岸潤一郎外野手も、そのひとり。厳しい環境の中で夢を追った日々を振り返る。
高知・明徳義塾高ではエースとして甲子園に4度出場。投打で注目を浴びた。拓大進学後は肩や肘の怪我に苦しんだ。2年夏に右肘のトミー・ジョン手術を受け、3年秋に野球部を退部。大学も中退した。
「朝の集合には行くんですけど、その後寮に帰って、お金がないから漫画喫茶に行ってずっと漫画を読んでいました。怪我をしていても、できる練習はあったはずです。監督やコーチにも『練習しろ』と言われていましたが、それでもしなかった。当時の僕は子どもで、響かなかったんだと思います」
野球から離れるつもりだったが、子どもたちと向き合う野球教室に参加した時に「野球が嫌いなわけじゃないんだな」と気が付いた。徳島の球団社長が地元の大阪に足を運んでくれたこともあり、独立リーグ入りを決意。NPBを目指したが、思った以上に生活が厳しかった。
「1年目にベストナインを獲得して、副賞でファストフード店の3万円分の商品券をもらいました。それを食費にしないと生活が楽にならないと思って、毎朝食べていたら痛風になりました。オフシーズンは練習が終わってからアルバイトをしていたので、まかないで食費を節約し、そこでなるべく野菜を摂るようにしていました。体作りのためにはできることは、そのくらいしかありませんでした」
深夜1時に帰宅、就寝は未明→翌日デーゲームで朝6時に出発する日も
さらに苦労したのは、長距離のバス移動だ。四国IL選抜の関東遠征では、四国からバスで10時間以上かけて移動し、翌日体が動かず、ヤクルトの2軍にノーヒットに抑えられたこともあった。
「愛媛の端でナイターの試合があったら、徳島の家に帰るのが夜の1時くらいになります。それから、食事の支度や洗濯など自分で全部済ませると、寝るのは3時。次の日がデーゲームだと朝6時には家を出なくてはいけませんでした」
そんな生活が2年間続いたが、楽しかったと振り返る。「今、NPBでプレーさせていただいているから、当時を楽しかったと思えるんだと思います。順調に階段を上ってプロになった人よりは、いろんな経験ができていますから」。独立リーグで使用していたボールは、ボロボロだった。「今は死ぬほどきれいで驚きますよ」と苦笑いを浮かべ「この状況に慣れることのないようにしたい」と気を引き締める。
プロ4年目の今季は1軍で61試合に出場し、3本塁打、12打点、打率.209。打撃で一皮むけることができれば、定位置も見えてくる。来月で27歳。「1球1球準備しています。それが、試合に出ている最低限の責任だと思っています」。“必要だった”遠回りをへて掴んだ、恵まれた環境でプレーできる喜びを、精一杯のプレーで見せていく。
(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)