日本選手やNPB組が続々と台湾球界へ 激動のオフ…元近鉄戦士が監督就任
呉念庭、張奕は台湾球界へ…来夏ドラフトの対象になる
台湾球界が「激震のオフ」を迎えている。最も衝撃的といえるのが、呉念庭内野手の西武退団だ。涙も見せた会見で、今後について「台湾で野球を続ける」と話した。本人も、マネジメント会社も明言していないが、台湾プロ野球でのプレーは確実。ドラフト1巡目での指名も間違いないだろう。
過去に特例はあったものの、2021年の陳冠宇投手、呂彦青投手ら海外リーグでプレーしていた選手が帰国し、初めて台湾プロ野球でプレーする場合は毎年7月に行われている台湾プロ野球のドラフトの対象となる。1軍でプレーするには、指名球団と正式契約し、支配下登録されなければならないため、デビューは早くても7月中旬以降となる。
台湾プロ野球のドラフト会議は、前年の最下位チームから順に指名するウェーバー制だ。ただ、昨年リーグに加盟した第6の球団、台鋼ホークスは来季から1軍に参入するため、アジアウインターリーグ終了(12月17日)後にドラフトのくじ引き順を決める。
「1番くじ」の可能性が最も高いのは今季年間最下位の富邦ガーディアンズ。林華韋GMは「代表クラスの好選手。非常に興味がある」と明言。自力で「1番くじ」を引く可能性を残す台鋼の劉東洋GMは「日本スタイルの我が球団にぴったりの選手」と、いずれも高い関心を示している。
呉念庭が「一番くじ」の権利を得た球団から指名されることが確実かというと、そう言い切れない。その1つが今季はレッドソックスでプレーし、現在FAの張育成内野手の動向だ。台湾紙『The Merit Times』は、MLB2球団が張にメジャー契約を提示したほか、日韓球界も関心を示し、「アジアプロ野球チャンピオンシップ」開催中には日本の球団と接触したと報じた他、オファー次第では、台湾球界入りの可能性もあるとの見方を示している。
元ハムの王柏融は来季から台鋼でプレーへ
西武から戦力外通告を受けた張奕投手の台湾での現役続行宣言もファンを驚かせた。張奕は当初、独立リーグを含め、NPB復帰を目指し日本でのプレーにこだわりをみせていたが、台湾メディアによると、台鋼ホークスの洪一中監督が12球団合同トライアウトを視察した際、「家族を養いたいと考えるなら台湾に帰ってきなさい。早いほうがいい。数年経っていざ戻ろうと思った時には、もう誰も必要としてくれないよ」と、本人に直言したという。
張奕はこの一言に心を打たれ、台湾でのプレーを決意。ただ、幼い子どもを含め、家族を慣れない台湾の地に連れて来るわけにはいかないとし、「単身赴任」を決めたという。
11月23日、張奕はアジアウインターリーグでは「テスト生」として台鋼の一員としてプレーすることを表明。27日から練習に合流した。既に台湾プロ野球のドラフト参加を表明している張奕は、ウインターリーグ終了後も台鋼に残り「練習生」契約を結び、ドラフト会議まで2軍戦出場を通じて調整したいと希望している。
11月13日に日本ハムを退団した王柏融外野手の動向も注目される。8月10日、台鋼と楽天の間で交わされた「世紀のトレード」で、台鋼は今年7月のドラフト会議で全体1位で指名した元メジャーリーガー、WBC代表の林子偉内野手を放出する代わりに、楽天から王溢正投手、藍寅倫外野手、翁ウェイ均(ウェイ=偉の偏が王)投手を獲得したほか、王柏融が将来的に台湾球界へ復帰する際のCPBLにおける「契約所有権」を、台鋼へ譲渡することについて、楽天との間で合意をとりつけた。
台鋼の劉東洋GMは、現在、交渉中としながら、王は台湾でのプレーを希望しているとして、年内の契約締結に期待を示している。今季、過去最高の観客動員数を記録した台湾プロ野球。来季は、2008年以来16年ぶりに1軍は6球団制となる。代表主力クラスの帰国ラッシュにより、さらに盛り上がることは必至だろう。
古久保健二氏は楽天モンキーズの監督に就任
その第6の球団、台鋼ホークスは1軍初年度の来季に向けて補強やテストを行っている。11月14日、アジアウインターリーグに単独チームで参加するにあたり、広島、西武などNPBでもプレー経験のあるデュアンテ・ヒース投手、ABLや米独立に所属したジャック・フォックス投手、さらに、今季のBCリーグのMVP、元埼玉武蔵の小野寺賢人投手、ABLや米フロンティアリーグでもプレーした塩田裕一投手を補強した。この4選手はパフォーマンス次第で、来季の外国人選手に選ばれる可能性がある。
11月27日には、来季の外国人として、今季DeNAから戦力外通告を受けた笠原祥太郎投手の獲得を発表した。11月29日には独自のトライアウトを開催。今季まで広島でプレー行木俊投手、元巨人の広畑塁捕手のほか、現役の独立リーグプレーヤーら日本人選手を含む投手8人、野手3人、計11人が参加した。当日は球団幹部に加え、昨年客員コーチをつとめた「侍ジャパン」日本代表の井端弘和監督に加え、吉見一起投手コーチも見守った。
台湾プロ野球では近年、日本人指導者が増えている。今季は味全の台湾王者を支えた高須洋介一軍打撃コーチはじめ、6球団全てで日本人指導者が活躍したが、台湾の楽天からNPBの楽天へ復帰した真喜志康永コーチを除き、おおむね契約更新が濃厚とみられる。
楽天は11月29日、古久保健二1軍ヘッドコーチの1軍監督就任を発表した。日本人が台湾プロ野球で監督を務めるのは、2012年6月から2013年8月まで統一を指揮した中島輝士氏以来となる。また、日本人プレーヤーは台鋼が笠原祥太郎を獲得したほか、楽天もBCリーグの昨年の投手3冠王で、今年も奪三振王に輝いた元信濃の鈴木駿輔投手を獲得した。
このほか、球団交流の話題も続々と明らかになっている。来年2月17日、18日、楽天モンキーズはロッテのキャンプ地、沖縄・石垣島に赴き、恒例の交流戦「アジアゲートウエイ交流戦パワーシリーズ」を行う。また、統一の蘇泰安GMも、現時点では計画段階としながら、来年2月に高知を訪れ、西武との交流戦のほか、当地でキャンプを張るチームとの交流を行う方針を示した。このほか、巨人も球団創設90周年および台北ドームの開業を記念し、那覇での春季キャンプを打ち上げた後、台湾を訪問。来年3月2日に中信兄弟、3日に楽天モンキーズと親善試合を行うことを発表した。
台湾プロ野球の盛況、日台球界の交流の深まりを感じる中、悲しいニュースも伝えられた。阪神、日本ハムで現役10年、指導者としても豊富な経験をもち、中信兄弟の前身である「兄弟エレファンツ」で1999年から2005年、2011年から2012年と計9年、アマチュアの崇越科技でも2年間指導者をつとめた榊原良行氏が11月26日に亡くなった。厳しい指導で若手選手の守備を鍛え、多くの内野の名手を育てた榊原氏は、優しく思いやりあふれる人柄で、選手たちから父親のように慕われ、尊敬されていた。(情報は12月5日現在)
(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)