育成24歳・大江海透に求めた姿勢「打たれてもいい」 プロの道を切り開いた“西岡剛の言葉”

オリックス・大江海透【写真:北野正樹】
オリックス・大江海透【写真:北野正樹】

オリックス・育成ドラフト2位の大江海透が西岡剛監督から学んだこと

 絶対的エースでなくても、プロ野球選手になれることを示したい。九州アジアリーグの北九州下関フェニックスから2023年育成ドラフト2位でオリックスに入団した大江海透投手は、その一念でボールを握る。

「高校、大学と常に2番手(投手)で、悔しい思いをしてきました。支配下(登録選手)になって、今、そんな境遇にいる選手に希望を与えたいんです」

 かつて、ボールを速く投げることはできたが、制球が悪かった。そんな控え投手がプロ野球の世界に飛び込むことができたのは、西岡剛監督(現・総監督)のおかげだ。大江は佐賀県出身。プロの世界を意識したのは、神崎清明高から久留米工業大学に入ってからだった。

 九州大学連盟北部リーグで競っていた西日本工業大学のエース・隅田知一郎投手の存在が、自身を奮い立たせた。長崎・波佐見高時代、夏の甲子園に出場しプロのスカウトの注目を集めた隅田は、同じ左腕で直球主体に投げ込む同じタイプの投手。大江はライバルとして常に意識をしていたという。

 しかし、隅田が2022年にドラフト1位で西武に入団したのに対し、大江には声が掛からず。実業家の堀江貴文氏が設立した福岡北九州フェニックス(当時)に入ることになった。「西岡監督は厳しいイメージのある方ですが、常に優しい言葉を掛けていただきました。投球フォームなどの技術ではなく、打者目線のアドバイスなど参考になりました」。忘れられない一言がある。

「プロのスカウトの方が試合を見に来られるようになった昨年の5月頃でしょうか。『打たれても四球を出してもいいから、変化球で逃げず真っすぐを見せろ』とアドバイスを頂きました。スカウトの前で打たれたくないから変化球を使おうと考えていた時でしたから、気持ちが楽になりました。結果を気にして変化球などに頼っていたら、打たせて取る投手という普通の評価しかしてもらえず、ドラフトで指名されることはなかったと思います」

厳しい現実を乗り越えて…目指す場所

 最速153キロのストレートを武器に、攻める投球を見せたことが、今につながったと語る。ただ、プロの世界に入り込めたが育成契約。指名後の記者会見で西岡監督は「支配下(登録選手)で指名されるほど成長させることができなかった。満足せずしっかりと支配下(登録選手)になれた時に『スタートラインに立ったね』と言います。彼が思っているより、厳しい現実が待っています。彼がその空気を吸って、どう感じるか」と言葉を送った。

 2005年に41盗塁で盗塁王に輝きロッテの日本一に貢献したほか、首位打者やベストナイン、ゴールデン・グラブ賞などを獲得。MLBにも挑戦し阪神でも活躍した超一流のプレーヤーだからこそ、厳しいプロの世界を知る。

 大江は今キャンプ中、上半身のコンディション不良でやや出遅れたが、中盤にはブルペンにも入りアピールの準備を整えつつある。「周りは凄い選手ばかりですが、圧倒されていたら(上に)行けないんで、負けるわけにはいきません。自分もいけるという自信はあります」と意気込む。西岡イズムで芽生えた「気合と根性」。「1球に魂を込めた投球」を武器に、スタートラインを目指す。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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