勝利確信も…神様に見放された“行動”「あれはいかんかった」 ベンチで味わった悪夢
都裕次郎氏は1982年に16勝で優勝に貢献も…白星から見放された時期があった
ついに覚醒した。元中日投手の都裕次郎氏が大活躍したのが、プロ6年目の1982年シーズンだ。43登板で16勝5敗。先発はもちろん、ロングリリーフもこなしてドラゴンズのセ・リーグ制覇に貢献した。この年はいろんなことがあったという。勝利投手を確信して“失敗”してから1か月近く勝てなかったこと、監督推薦で初出場を果たしたオールスターゲームでの忘れられないシーンなど、大躍進の裏側も明かした。
都氏の6年目シーズンは、4月4日の開幕戦(対広島、広島市民球場)の2番手登板から始まった。開幕投手を務めた小松辰雄投手が内転筋を痛めて2回で降板。都氏は3回にマウンドに上がり、1イニングを投げて走者を許しながらも無失点で切り抜けた。次の登板は中2日で4月7日の阪神戦(ナゴヤ球場)に先発してプロ初完封勝利をマークした。5安打無四球。「覚えています。11-0の試合ですよね。コントロールが良かったんですよ」。
好発進で波に乗った。「その時はストライクがそこそこ入って、それなりに投げ分けられる自信がありましたね」。4月は2勝1敗。5月は8日の巨人戦(ナゴヤ球場)に8回無失点投球で3勝目、18日の広島戦(ナゴヤ球場)では4安打1失点完投で4勝目と勝ち星を重ねた。だが、5勝目をマークしたのは6月17日の広島戦(ナゴヤ球場)。約1か月、勝ち星から遠ざかった。この時期のことで都氏が口にしたのが仙台での苦い思い出だ。
5月23日の大洋戦(宮城)。先発した都氏は7回4失点で降板した。7回終了時点では6-4で、都氏に代打が出た8回表の攻撃で中日打線は2点を追加。その裏から登板の鈴木孝政投手が2点を失い、再び2点差に迫られるも、中日は9回表にも1点。9-6の3点リードで迎えた9回裏、続投の鈴木は簡単に2死を奪ったが、何とそこから3連打で満塁にされ、続く長崎啓二外野手に逆転サヨナラ満塁弾を浴びてしまった。
都氏が打たれたわけではないのに、なぜ自身にとっても苦い思い出になるのか。「実は9回にもう勝ったと思って、自分はベンチでこっそり、みんなと握手していたんですよ。今でも、あれはいかんかったなぁって思います。最後まで何が起きるかわからないですからね」。早すぎた勝利の握手から流れが変わったかのように、勝利の女神からも見放されたように次の勝ち星を得るまでに時間がかかった。あの時の“失敗”は忘れられないわけだ。
1982年球宴で落合博満と対戦…僚友モッカが一飛を落球
約1か月ぶりの勝利からは再び、調子を取り戻し、前半を8勝2敗で終えた都氏はオールスターゲームにも監督推薦で初出場。そこでの“出来事”も印象深いという。7月24日の第1戦(後楽園)に2回から登板して3イニングを投げて1失点(自責0)。「江川(卓)さん(巨人)が先発で3回を投げる予定だったんですけど、1回で代わったんですよ。確か3点取られたんですかね。調子が悪いって言い出して、それで急きょ自分が2回から投げたんです」。
登板の経緯だけではない。都氏は2イニング目の3回に1点を失ったが「何でもない普通のファーストフライを(ケン・)モッカ(内野手、中日)が落として1点取られたんです」。この時、打ち取った相手はパ・リーグ4番打者のロッテ・落合博満内野手だった。「落合さんとは(1979年の)ジュニアオールスターとこのオールスターと、そこから2年後くらいのオープン戦と合わせて4打席対戦したんですが、抑えたのはオールスターの時だけだったんですよ」。
そんな貴重なアウトもまさかのエラーで1点を失う結果に。落合は28歳だったそのシーズンに初の3冠王(打率,325、32本塁打、99打点)に輝くなど、偉大な打者になっていっただけに、なおさら、その日の内容は「よく覚えている」という。そんな超一流の集まりであるオールスターゲームを経験したことが、後半戦へのバネにもなった。前年の5年目はスタミナ切れで後半戦に0勝と失速したが、6年目のこのシーズンは後半も8勝を上乗せできたのだ。
「ロングリリーフも含めて、リリーフの勝ち星が3つくらいありましたけどね」。中日優勝の立役者のひとりになった都氏は221回1/3を投げて16勝をマークした。最多勝は20勝を挙げた広島の北別府学投手が獲得し、さらに19勝の江川もいたが、都氏が残した数字もインパクトがあった。16勝5敗で勝率.762はリーグ1位。ストレートは140キロに届かなくても左右高低を使った抜群のコントロール、切れ味鋭い変化球、小気味いい投球テンポは芸術品だった。
「よく投げたと思います。ローテーション慣れし、体力的にもピッチング的にもちょうどこなれた時期だったんじゃないですかね」。滋賀・堅田高からドラフト1位で入団して6年目。仙台での教訓、落合との対決など、経験したすべてを肥やしにして、都氏は、ついに素質を開花させた。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)