プロ注目の後輩・半田南十に求めた“助言” 29年ぶりの甲子園へ…日大藤沢・牧原主将の覚悟
昨秋の準々決勝敗退後、チーム全体で新基準バットに切り替え
5日に開幕した第106回全国高等学校野球選手権神奈川大会。第2シードの日大藤沢は伊志田との2回戦に快勝し、3回戦にコマを進めた。打線をけん引するのが、2回戦でホームランを含む3安打を放った「1番・遊撃」の半田南十(2年)と、2安打2打点の「3番・二塁」、主将の牧原賢汰(3年)だ。
抜群のミートセンスが光る半田は、来年のドラフト候補に挙がる好打者。牧原はU-12侍ジャパンに選ばれた実績を持ち、ともに日大藤沢OBの長男・巧汰(ソフトバンク)、二男・貫汰(青森大)が果たせなかった甲子園出場の夢を追っている。
昨秋は準々決勝で東海大相模に0-5で敗れ、選抜出場を逃した。
「自分たちの力を完全に打ち砕かれた試合。実質、あそこから新チームが始まりました」
牧原には毎回のようにチャンスが回るも、タイムリーが打てず、結果を残せなかった。山本秀明監督は、「牧原に1本でも出ていれば、試合展開は変わっていたはず。相当悔しい思いをしたと思います」と振り返る。
敗戦後、チーム全体で新基準バットに切り替え、夏に向けた戦いが始まった。新基準で打ち続ける中で、バッティングに対する考えを改めるようになったという。
「以前の金属バットは、どんな打ち方でも芯に当たれば飛んでいく。それもあって、バッティングに対してあまり考えることがなかったんですけど、低反発は今までと同じ考えでは飛ばせない。秋の大会で負けてから、バッティングをより考えて、研究するようになりました」
どうすれば、確実性を上げることができるのか。大きな手本となったのが、1つ下の後輩・半田のバッティングだった。
「半田のバッティングを間近で見て、ボールのライン(軌道)に対して、どれだけ長くバットの芯を入れられるかが大事だとわかってきて、それができれば、多少差し込まれてもヒットになる。練習から半田と組んで、いろいろ教わるようになりました」
今までは、トップから斜めに振り下ろすようなイメージを持っていたが、半田との練習では軸足の前にスタンドティーを置き、キャッチャーに近いところから振り出すスイングを習得していった。
牧原主将の決意、木製バットで挑む夏の神奈川大会
7日には、このチームで最後の練習試合が日大藤沢グラウンドで行われた。
牧原が手に持っていたのは、メープル素材の木製バット。春季県大会の準々決勝で武相に敗れたあと、金属から木製に変更したという。
「低反発であっても、芯に当たれば飛ぶのが金属バット。自分の中でそこに甘えてしまって、チャンスの時に強引に打ってしまう場面が何度かありました。武相戦も最後のチャンスで、『自分で返してやろう』という気持ちが強すぎて、ショートゴロ。どうしても、マックスで振ろうとしてしまう。木製バットのほうが8割ぐらいの力感でコンパクトに振れるので、監督さんとも相談して、春に負けてからはずっと木製を使っています」
85センチの860グラム。高校生にしては長く思えるが、「これから先のことも考えて、目一杯長く持っています」と語る。
「自分の長所は、逆方向にも飛ばせること。そのためにも、半田がやっているようなスイングを身に付けていきたい。木製バットでもそれができるのが、理想だと思っています」
2人の兄がすでに木製バットでプレーしていることも、大きな刺激になっている。
「小さい頃から、野球のことをずっと教わっているんですけど、3兄弟なので上と比べられるのは当たり前。将来的には2人を越えたいと思っています」
山本秀明監督は、「走攻守すべての平均点が高いのが牧原の特徴」と語ったあとで、昨秋からの変化を教えてくれた。
「昨年秋の東海大相模で負けたあとからですが、フリーバッティングに対する意識が変わりました。引っ張ることがないんですよね。インコースであっても常にセンター返しを心掛けているのがわかる。今もそれをずっと続けている。なかなかできることではありませんよ」
バッティングに対して真摯に向き合ってきたことが、監督が明かしたエピソードからも伝わってくる。
半田南十の目標はメジャーで活躍する吉田正尚
牧原の“師匠”とも言えるのが、2年生の半田だ。小学6年時にはベイスターズジュニアに選ばれた実績を持ち、早くからそのバッティングセンスには注目が集まっていた。
山本監督は、「どんなボールでも自分のスイングができ、ヒットにする能力が高い」と対応能力の高さを評価する。
「自分のバッティングの強みは、後ろからスイングして、インパクトゾーンが長いこと。キャッチャー側で当たればレフトに飛び、真ん中で捉えればセンターに飛び、少し前に出されたときはライトに飛ぶ。ボールの軌道に、早くバットを入れることを一番意識しています」
中学時代は都筑シニアでプレー。そこで出会ったコーチに、今に通じるバッティングの基礎を教わったという。
「イメージとしては、手で打つ感覚はなくて、胸郭で打つ。体をうまく回していけば、自然にボールのラインにバットが入ると思っています」
目標にしているのは、「スイング軌道が似ている」という理由から、吉田正尚(レッドソックス)の名を挙げる。打率だけでなく、長打を打てるところも魅力であり、本人が目指す理想像だ。
バッティング練習でペアを組む先輩・牧原に対しては、「自主練習でも毎日ずっと一緒に打っています」と笑顔を見せる。
「賢汰さんからいろいろ聞いてくださることが多くて、自分はまだ教えられるほどの技術はないですけど、『こういう考えでやっています』という話をよくしています」
「互いにエールを」とお願いすると、「ミスをしてもカバーするので思い切ってプレーを」と、口を揃えた。
1995年以来2度目の夏の甲子園へ。ともに磨き上げてきたバッティングで、神奈川の頂点を獲りにいく。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。