“胴上げ投手”の裏で…襲った熱中症の危機 取材も中止、関東第一左腕が乗り越えた壁
先発の畠中鉄心が5回4失点、リリーフの坂井遼は4回1失点
夏の高校野球東東京大会の決勝戦が29日、神宮球場で行われ、関東第一高が8-5で帝京高を破り、春夏連続の甲子園出場を決めた。夏の甲子園は2019年以来5年ぶり。先発左腕・畠中鉄心投手(3年)リリーフ右腕・坂井遼投手(3年)の“鉄板リレー”で、13年ぶりの甲子園を狙った帝京を下した。
相手の帝京は、今春の東京都大会7試合で9本塁打を量産した破壊力が売り物である。それだけに関東第一先発の畠中は「(米澤貴光)監督から『ホームランはしかたがない』と言われていたので、思い切って自分の持ち味の緩急を使っていこうと考えていました」。実際、3-0とリードして迎えた3回には、帝京の4番・丹羽心吾捕手(3年)に中前適時打され1点を返された後、続く富浜琉心内野手(3年)に左翼席中段へ逆転3ランを放り込まれた。
それでも畠中はチェンジアップ、カーブ、スライダー、カットボールなど変化球を駆使して粘る。味方打線は4回に同点に追いつき、続く5回には相手のパスボール、エラーなども絡んで一挙4点を勝ち越した。その5回の攻撃では、畠中も1死一、二塁の好機で打席に立ち、バントで三塁線ギリギリに転がし、相手投手の一塁への悪送球を誘って8点目をもぎ取った。結局、畠中は5回7安打4失点でしのぎ、4点リードの6回から速球派右腕の坂井にバトンタッチしてベンチへ退いた。
ポーカーフェイスの軟投派である畠中と対照的に、2番手の坂井は140キロ後半の速球で押しまくり、時おり気合を込め雄たけびを上げながらボールを放った。残りの4イニングを2安打1失点に抑え、“胴上げ投手”の栄誉に浴した。もっとも、スイスイ投げていたように見えた坂井も、内情は違っていた。猛暑の中で力投したとあって、途中から熱中症の症状が現れ、最後まで投げ切った後、閉会式に少し遅れて参加したほど。その後の報道陣の取材はキャンセルした。限界ギリギリの体を気迫で鼓舞し、帝京打線を跳ね返したのだった。
今春選抜とは背番号「1」と「10」が逆…監督は「性格の問題」と説明
先発・畠中、リリーフ・坂井の2人で抑え切るパターンは、準々決勝以降3戦連続。その3試合で畠中は計16回7失点、坂井は11回3失点だった。現在は畠中が背番号「10」、坂井がエースナンバー「1」を付けているが、今春の選抜大会に出場した時は逆だった。
米澤監督は「性格の問題です。畠中は10番でも、1番でも、20番でも、ぶれることがない。坂井は投げてみないとわからないところがあって、浮き沈みがあったからです」と説明する。不安定な坂井にエースナンバーを与え、自覚を促したわけだ。
ただし、畠中は「背番号が10になって、悔しい気持ちはありました。チームとして甲子園に行って全国制覇するという目標のために、気持ちを切り替えて投げてきました」と胸の内を明かす。米澤監督の説明を伝え聞いても、「でも、やっぱり1番を着けたいなと思います」と本音を隠さなかった。
畠中は「自分は冷静、坂井は普段から面白くて、はっちゃけるタイプです。坂井は投手として自分にないストレートの球威、キレを持っているので、見習いたいと思っています」と言う。米澤監督は「全然違う性格で、いいところを少しずつ学び合ってくれている。すごくいい2人だなと思います」と目を細める。
選抜大会では大会初日、開会式直後の第1試合で青森・八戸学院光星高と対戦した。先発の畠中は7回1失点で降板。8回から登板した坂井は、1点リードで9回を迎えるも同点に追いつかれ、タイブレークの延長11回に自身の暴投もあって3点を献上し、敗退している。
「甲子園ではまず1つ勝って、選抜の借りを返したい」と米澤監督。畠中は「選抜では自分の失点から始まって負けたので、チームを勝たせられる投球をしたいです」と言葉に力を込めた。目標は初の全国制覇。畠中、坂井、選抜大会後急成長した背番号「11」の大後武尊投手(3年)も加え、投手陣が原動力となる。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)