人生初のブルペン待機 山下舜平大が過ごした10日間…2人の助っ人に感謝する理由

オリックス・山下舜平大【写真:北野正樹】
オリックス・山下舜平大【写真:北野正樹】

オリックス・山下舜平大「苦しんでいる人を1人にしないような人になりたい」

 新たな経験は、無駄ではなかった。オリックス・山下舜平大投手が、人生で初めて経験したブルペン待機で、今後のプロ野球人生に生きる10日間を過ごした。「自分はまだできる立場ではないのですが、苦しんでいる人を1人にしないような人になりたいですね」。一時の迷いから解放されたかのように、22歳は目を輝かせた。

 山下は福岡大大濠高から2020年ドラフト1位でオリックスに入団。プロ3年目の昨季、最速160キロのストレートと落差の激しいカーブで9勝(3敗)を挙げ、パ・リーグ新人王に輝いた。さらなる飛躍を誓った今季、7月19日までに先発で5試合に登板。結果は0勝3敗、防御率5.73と苦しんだ。

 3度の出場選手登録抹消を経て首脳陣が下したのは、救援への一時的な挑戦だった。「ブルペン陣の思いなどを知った上で先発に戻るのか、知らないままでいるのか。これから先のことを考えたら、気付くことがあると思うんです」と厚澤和幸投手コーチは表現していた。7月20日の楽天戦(ほっともっと神戸)から1軍のブルペンに入り、初戦は2-2の12回から救援登板し、勝ち越しを許して負け投手に。その後の2試合も1失点ずつを喫し、再び先発での調整に戻ることになった。

「打たれましたね。でも……。頭の中はクリーンになったと思います」と吹っ切れた表情で山下は話した。「先発なら1週間の準備があって、試合で出た課題に対して、また1週間いろいろ考えて準備していくんです。調子が悪いとその課題のことで頭がいっぱいになってしまって、どんどんいろんなことを考えてしまいます。中継ぎ、抑えなら考える前に試合があるので。気持ちの持ちようやいろんな考え方ができたのは、絶対に生きると思います」。

 首脳陣から救援挑戦の意味は聞かされてはいなかったという。それでも、復調のきっかけをつかんでほしいという思いは伝わった。「言われなくても、感じますよね。自分のやることはパフォーマンスを上げる、打者を抑えることだけ。無駄なことは考えないようにしていました。自分が目的とすること以外のことを考えても……。そんなに器用じゃないんで」と自分なりに答えを求めた。

悩み、もがく22歳に助っ人たちの“支え”

 大きな学びもあった。アンドレス・マチャド投手とルイス・ペルドモ投手の「存在感」だった。ともにMLBの第一線で活躍した実力派。そんな2人は、山下がブルペンでピッチングを始めると、そばでじっと見詰め「ナイスボール」と手をたたき、声を掛けてくれた。

「ピッチャーが肩を作り始めたら、声を掛けることなんて(本来は)ほぼないんです。気を遣ってくれているというか、見守ってくれているというか。外国人投手には、メンタル的に落ち込んでいる人を1人にしないというような、文化があるんでしょうね。彼らはすごい経験をしてきていると思うんで、そういう人の気持ちがわかるんじゃないでしょうか」

 悩み、もがきながらも前を向き進み続ける。その姿勢にマチャドらも共感し、背中を押してくれた。「野球に限らず、そういうことは大事だと思います。人間的にも得たものは大きいですね」と山下。今度は、自分が声を掛けられる人になろうと誓った瞬間だった。

 厚澤コーチら首脳陣は「彼には、3年後には誰からも文句が出ないくらいのエースになってくれないと困るんです」と、新たな環境に送り出した。懸命に過ごしたブルペンでの10日間。新たな姿をマウンドで見せつける。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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