「昭和のオヤジ」が導いた甲子園初勝利 進撃の要因…新潟産大付がGW前から取り組んだ秘策

花咲徳栄を破った新潟産業ナイン【写真:加治屋友輝】
花咲徳栄を破った新潟産業ナイン【写真:加治屋友輝】

中学硬式チームでの実績を買われ2016年に就任した吉野公浩監督

 ミラクル快進撃が止まらない。第106回全国高校野球選手権大会は9日、甲子園球場で第3日が行われ、春夏を通じて初出場の新潟産大付が2017年大会を制した花咲徳栄(埼玉)を破った。2-1の逆転勝ちだった。新潟県勢の甲子園での勝利は、2017年の日本文理以来7年ぶりで“令和初”。もともとノーシードで新潟大会に挑み、名門校やシード校を連破して初の甲子園に駒を進めていた。

 1点リードで迎えた9回の守備も、2死走者なし。2番手・田中拓朗投手(3年)が最後の打者を中飛に仕留め、ボールが中堅手・戸嶋翔人外野手(3年)のグラブに収まると、控えの選手たちがまるで優勝したかのように、躍り上がってベンチを飛び出した。

 お立ち台に上がった吉野公浩監督の目には、光る物があった。「夢の中にいると言いますか、甲子園で勝って、お立ち台に上がるなんて、テレビの中の世界のようです」と語る声は、試合中に張り上げ過ぎて枯れていた。

 新潟大会から進撃を続ける秘訣は、「粘り」にある。この日も相手先発で140キロ台後半のストレートを投げる上原堆我投手(3年)の攻略法を、吉野監督は「カウント0-2に追い込まれても、ファウルで粘り、ボール球を選んで、球数を投げさせて『こいつら面倒くさいチームだな』と思わせよう」と説いていた。実際、打線は5回まで無得点だったが、最終的に上原に152球も投げさせた粘りが、逆転劇の呼び水となった。

 投げては、先発の宮田塁翔投手(3年)が5回1失点でしのぎ、田中は4イニングを1安打無失点に封じた。打線は1点を追う6回1死三塁で、7番・千野虹輝外野手(3年)の中堅左への適時二塁打で同点。7回には2死三塁で、5番・多田大樹内野手(3年)が左前適時打を放ち勝ち越した。

1967年生まれの“KK世代”「俺は昭和のオヤジ」

 吉野監督は、地元の中学硬式野球チーム「柏崎シニア」を率いて全国大会に導いた実績を買われ、2016年に新潟産大付の監督に就任した。その後、着実にチームを強化し、8度目の夏に甲子園出場を果たした。

 仲野諒野球部長も、かつて柏崎シニア時代に吉野監督の指導を受けた教え子。「吉野監督は言葉で選手をやる気にさせ、モチベーションを上げるのが上手です」と証言する。この日の試合前にも、吉野監督は「かみついたら離すな」、あるいはボクシングに例えて「まずはガードを固めて、ジャブとボディで相手のスタミナを奪い、最後にストレートで勝ち切るぞ」と“強者に立ち向かう心得”を説いていたという。

 今大会は「朝夕2部制」が試験的に導入されるなど、暑さ対策がテーマの1つとなっている。新潟産大付の場合は、どこか“昭和の香り”のする対策を施してきた。「今年はゴールデンウイーク前から新潟大会が始まるまで、練習の最初にあえて冬用の裏起毛のジャンパーを着てウオーミングアップなどを行い、キャッチボールの段階から脱ぐようにして、暑さに体を慣らしてきました。暑さ対策には毎年工夫をこらしていて、過去にはビニール袋を切って首と腕を出させ、(サウナスーツのように)着させていたこともあります」と明かす。

 吉野監督は1967年(昭和42年)生まれの57歳で、元西武の清原和博氏や巨人・桑田真澄2軍監督を代表格とする“KK世代”だ。「普段から『俺は昭和のオヤジだから、昭和流でいくぞ』とおっしゃっていますよ」と仲野部長。14日の2回戦で対戦する京都国際も優勝候補の一角だが、“吉野マジック”がまた炸裂するか。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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