渡部遼人が「目指すべき姿」 描く理想のバット軌道…シーズン途中の“積極改良”
オリックス・渡部遼人が取り組む「積極打法」
新打法で“本家”を追い抜いてみせる。オリックス・渡部遼人外野手が、タイプの似ていた阪神・近本光司外野手の打撃を参考にするのを止め、課題の打撃を磨いている。「(カウントを)追い込まれても、ボールに食らいついていくという感覚です」。シーズン中のフォーム改造を、爽やかな笑顔で説明した。
新打法を披露したのは、6月29日のロッテ戦(ZOZOマリン)だった。近本を参考にしたバットのヘッドを投手の方向に大きく傾ける打撃フォームを、バットのヘッドを真上に立てるフォームに変えて打席へ。「8番・右翼」で先発出場し、4打数無安打とすぐに結果は出なかったが、新たな目標へのスタートを切った。
「真似をしているのではありません。近本さんのバッティングを参考にして、今までの自分のスタイルを更新していきたいんです」。爽やかな表情を一変させ、実績のある選手をリスペクトしながら、コピーではなく自らの新しい形を模索していることを強調したのは、昨年12月だった。
気になる存在だった。関学大、大阪ガスを経て2018年ドラフト1位で近本は阪神入り。プロ3年目に最多安打のタイトルを獲得し、4度の盗塁王に加え21年からは3年連続してゴールデン・グラブ賞とベストナインに輝いた。
2021年のドラフト4位でオリックスに入団した渡部は、慶大時代に東京六大学リーグで通算24盗塁し、成功率100%で「失敗しない男」の異名をとった。打撃でも4年秋に打率.359でベストナインを獲得し、全日本選手権では「2番・中堅」で、打率.563をマークして首位打者に輝き、チームの日本一に貢献した。
ただ、渡部はプロ入り後、1年目の打率は.059、2年目も.171と苦しみレギュラー獲りは遠かった。「強い打球を打つためにはどうすればいいのか」。模索の末に、ともに左投げ左打ちの外野手、俊足巧打で守備範囲も広く身長も同じ171センチの近本をお手本にするのは自然の流れだった。
日本シリーズで目を凝らした打撃練習
映像などで、バットのヘッドを投手方向に大きく傾ける近本の打撃フォームや練習方法を見て参考にしてきたが、昨年、阪神と対戦した日本シリーズで「目指すべき姿はここだ」との思いが確信に変わった。近本は第7戦で4安打を放つなど、阪神の38年ぶり日本一に貢献し、最高殊勲選手に輝いた。
「ベンチ入りしていない時でも、阪神の打撃練習中はずっと近本さんのバッティングを見ていましたね」。一挙手一投足を逃すまいと、目を凝らしたという。シーズン後に早速、フォーム改造に取り組んだ。高知で行われた秋季キャンプでは、中嶋聡監督からアドバイスも受けた。「どのようにバットを出したらいいのかとか、クセが悪い方向に出ていればすぐに指摘してくださいました」と感謝する。
「真似だけをしていても、あの人になれるわけではありません。相当、打撃のレベルが高く難しいのですが、ヒントはたくさんもらえました」。バットも変えた。一流投手のボールに負けないよう、短くして重さを増やした。時にはバットのヘッドもヘルメットのつばより下になることがあった。近本の真似ではなく、理想の軌道に近付けるための工夫だった。
ただ、理想と現実の差は厳しい。「自分のやりたいことだけじゃ結果が残せません」。開幕3か月で、理想の打撃からは1度離れることにした。「近本さんの打法を真似して、無駄だとも、遠回りだったとも思いません。また、近本さんの打撃に戻るかかもしれません。進化や深化の途中なんです」。7月28日のウエスタン・リーグ、中日戦(杉本商事Bs舞洲)では「9番・左翼」で先発出場し、4打数3安打2打点でチームの勝利に貢献した。
「やりたいこと、やるべきことは決まっています」。開幕前に掲げた「1番・中堅」と「ゴールデン・グラブ賞」に近付けるよう“本家”に追いつき、追い越す努力を続ける。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)