覚醒した巨人23歳が“菅野超え” リーグ1位の圧倒数値「5.23」…5年目の開花でV貢献

巨人・井上温大【写真:矢口亨】
巨人・井上温大【写真:矢口亨】

4年ぶりリーグ優勝…9月の巨人は貯金5で先制時勝率91.7%

 9月に最もチームに貢献した選手をデータで探り出し、セイバーメトリクスの指標でセ・リーグ「月間MVP」を選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。

 そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。公式の月間MVPは9月以降、レギュラーシーズン終了時までの成績で評価するが、今回は9月1日から30日までの成績で評価する。

 まずは、9月のセ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

〇阪神:14勝8敗
得点率4.18、打率.269、OPS.699、本塁打14
失点率2.93、先発防御率3.29、QS率45.5%、救援防御率1.60

〇巨人:14勝9敗1分
得点率4.00、打率.266、OPS.707、本塁打16
失点率2.41、先発防御率2.07、QS率58.3%、救援防御率1.89

〇ヤクルト:14勝10敗
得点率3.92、打率.268、OPS.718、本塁打22
失点率3.58、先発防御率3.52、QS率37.5%、救援防御率2.65

〇DeNA:11勝9敗1分
得点率4.24、打率.267、OPS.698、本塁打14
失点率3.81、先発防御率4.31、QS率33.3%、救援防御率2.27

〇中日:9勝11敗
得点率2.85、打率.266、OPS.699、本塁打15
失点率4.45、先発防御率4.21、QS率35.0%、救援防御率3.74

〇広島:5勝20敗
得点率2.44、打率.241、OPS.581、本塁打4
失点率4.70、先発防御率4.42、QS率40.0%、救援防御率4.07

 8月に大きく勝ち越し首位に躍り出た広島だったが、9月は大失速。投手陣は先発、救援とも防御率4点台、WHIP1.4以上と不調。打撃陣もOPS0.6以下、本塁打4本と投打ともに実力を発揮できなかった。

 4年ぶりリーグ優勝を果たした巨人は、9月も安定の戦いぶり。特に救援防御率が1点台と盤石だった。その結果、先制時勝率は91.7%。阪神も打線が奮起し、2位を確定させた。

燕・村上が月間10発、巨人・岡本和、DeNA・牧らも高数値

 セイバーメトリクスの指標による9月の打者月間MVP選出を試みる。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。wRAAランキングは以下の通りになった

〇村上宗隆(ヤクルト):wRAA12.15、104打席、OPS1.071、打率.287、本塁打10

〇岡本和真(巨人):wRAA11.58、106打席、OPS1.068、打率.355、本塁打6

〇牧秀悟(DeNA): wRAA10.22、94打席、OPS1.033、打率.382、本塁打5

〇ドミンゴ・サンタナ(ヤクルト):wRAA9.80、102打席、OPS.961、打率.337、本塁打4

〇福永裕基(中日):wRAA9.73、90打席、OPS.975、打率.365、本塁打3

〇森下翔太(阪神):wRAA9.06、95打席、OPS.952、打率.321、本塁打4

 上記ランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。

〇矢野雅哉(広島):wRAA2.77、103打席、OPS.736、打率.304、本塁打1

 ランキングには各チームの主砲が並んでいる。その中でも最もチームに貢献を示したのが村上である。本塁打はリーグ断トツの10本、長打率.667をマーク。チームは遅ればせながら月間14勝10敗で勝ち越したが、得点源として大きく貢献した村上をセイバー指標で選ぶ9月の月間MVPに推薦する。

巨人・井上温大がリーグトップのRSAA5.23、奪三振率は10.71

 投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。上位ランキングは以下の通りとなった。

〇井上温大(巨人):RSAA5.23、登板4、イニング21、防御率1.71、WHIP1.00、奪三振率10.71、与四球率1.29、被本塁打0、QS率 25%

〇菅野智之(巨人):RSAA4.23、登板5、イニング33回2/3、防御率1.34、WHIP0.92、奪三振率5.08、与四球率0.00、被本塁打1、QS率60%、HQS率 60%

〇才木浩人(阪神):RSAA4.23、登板4、イニング25、防御率2.88、WHIP1.32、奪三振率6.48、与四球率1.06、被本塁打0、QS率75%、HQS率 25%

〇アンソニー・ケイ(DeNA):RSAA3.91、登板4、イニング20回1/3、防御率5.75、WHIP1.52、奪三振率10.18、与四球率4.87、被本塁打1、QS率 50%、HQS率25%

 上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。

〇森翔平(広島):RSAA3.07、登板2、イニング14、防御率0.64、WHIP0.64、奪三振率5.79、与四球率0.64、被本塁打0、QS率100%、HQS率 50%

〇丸山翔大(ヤクルト):RSAA3.04、登板8、イニング9、防御率0.00、WHIP0.67、奪三振率10.00、与四球率1.00、被本塁打0

〇ライデル・マルティネス(中日):RSAA2.86、登板8、イニング8、防御率1.13、WHIP0.75、奪三振率10.13、与四球率0.00、被本塁打0

 優勝した巨人の2投手が上位に並んだ。特に目立った貢献をしたと言えるのが菅野だろう。月間3勝、シーズン15勝で最多勝はほぼ手中に納めたと言えよう。ただ、セイバー指標の評価で菅野を上回ったのが、5年目23歳の井上である。

 イニング数は少ないが、RSAAに大きく影響する奪三振をK%(奪三振÷打席数)で評価すると、井上が30%で、菅野の15%を大きく上回る。内野フライ率も井上が10%で、菅野が5%だ。僅差をもって井上をセイバー指標で選ぶ9月の月間MVPに推薦する。

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY