吉田輝星の“魔球”は岸田監督直伝 意識した「捕手目線」…実際に受けて感じた軌道
オリックス・吉田輝星「捕った軌道をイメージして、どれだけ再現できるか」
百聞は一見に如かず。オリックス・吉田輝星投手は、コーチ時代の岸田護新監督のボールを受けて習得した新球「チェンジアップ」を武器に移籍1年目で復活を果たした。
「(教えてもらったのは)ちょっとじゃないです、全部です。キャッチャーとして捕らせてもらい、そのイメージで投げたらもう最高のボールになったんです」。目を輝かせて、決め球誕生の舞台裏を明かした。
5月29日の球団施設。大阪・舞洲のブルペン。2軍を担当していた岸田コーチに、吉田がチェンジアップの投げ方を聞いた。岸田コーチは、現役時代にストレートとチェンジアップを武器に、2011年には68試合に登板し33セーブを挙げたリリーバーだった。
握り方を教わり、実際に1度投げてもらったが、見ているだけではピンとこなかった。「マモさん(岸田)が投げる球を見ても、イメージできないところがあったんで、キャッチャー目線で見たかったんです」という吉田は、ミットを手にボールを受けることにした。
「ボールの軌道を見て、そういう(力の)抜き方をするって言ってたな、そういうことなんだな、とわかって。捕った軌道をイメージして、どれだけ再現できるかとやってみたら、マモさんとはちょっと違う球種のような気はしますが、いい感覚で投げられるようになりました」
翌日のウエスタン・リーグ、中日戦(杉本商事BS舞洲)で早速、試してみた。0-13の8回、6番手で登板。1死後、濱将乃介外野手にストレート2球を投じてファウルで追い込み、内角へ124キロのチェンジアップで空振り三振に仕留めた。
新天地で活躍も「本当にもう、あとがないんです」
6月4日に1軍昇格後は「火消しばかり(の場面)でチェンジアップを投げる機会がなく、ほっともっと神戸での負け試合で初球にポンと投げたらこんなにいいんだ、という感じで自信が持ててきた」という。
オフに鹿屋体育大学で動作解析をしてフォーム改善のデータを取得するなど、野球への探求心は深いが、キャッチャー目線でボールを受けたのは初めて。「1回、やろうとしてできなかったのが、伊藤(大海)さんのスライダーと、上沢(直之)さんのナックルカーブでした。上沢さんはキャッチボールの相手だったんで、ちょっと見せてくださいと言って投げてもらいました」という。
「ストレートの球速は上がりましたが、決め球がなくて。フォークは直線的に叩いてしまうので、空振りを取れる球となったらチェンジアップしかなくなって。消去法でチェンジアップを投げるしかなかったんです」というのが、指南を願った理由だった。
金足農(秋田)で甲子園に出場、県勢として108年ぶりに決勝進出に導き、2018年ドラフト1位で日本ハム入りした右腕。「本当にもう、あとがないんです。ちゃんと(日本ハムで)活躍していたらトレードはないんで。活躍できないからオリックスにきたわけで、何かを変えなきゃいけないというのは、常に持っています」。シーズン終盤の右肘痛でオフにボールは投げられない。強い危機感が成長を支えている。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)