近本光司が「超一流」のワケ 阪神MVPが語る活躍の裏側…届かない“平行線”

阪神・村上頌樹【写真:佐藤直子】
阪神・村上頌樹【写真:佐藤直子】

悔しい2024年からの巻き返しを期す右腕が考える「超一流」とは

 2024年、日本高校野球連盟に加盟する硬式野球部員数は12万7000人あまりだった。それに対し、プロ野球での支配下選手登録数は826人、さらに1軍の試合に出られる出場選手登録数は372人。すべての高校球児がプロを目指すわけではないが、やはりプロ野球選手になることは狭き門と言えるだろう。

 プロ入りだけでも難しいのだから、1軍選手が「一流」と言われるのも頷ける。競争の激しいプロ野球では、1軍昇格を果たしても定着するのは至難の業。だが、中には安定した活躍を続けてタイトル争いの常連になる、ごく一握りの「超一流」もいる。

 阪神・村上頌樹投手はプロ3年目の2023年、初めて1軍の先発ローテーションに定着すると、22試合に投げて10勝6敗、防御率1.75、WHIP(1イニングあたり被安打+与四球数)0.74と好成績を挙げた。文句なしの新人王受賞に加え、セ・リーグMVPも獲得。新人王とMVPの同時受賞はセ・リーグ史上唯一の快挙だった。

 2024年は7勝11敗と黒星が先行したが、前年を上回る25試合、153回2/3を投げ、防御率2.58、WHIP1.15という数値を記録。先発投手としては及第点のシーズンを送ったものの、「悔しいところはある」と納得する様子はない。

 2021、22年の最多勝投手で、自主トレをともにする大先輩・青柳晃洋投手がフィリーズとマイナー契約を結び、阪神から旅立つ今季。藤川球児新監督の下、エース級の活躍が期待される右腕は、「超一流」の条件について問われると「自分の体を知っているのが超一流の選手だと感じています」と答えた。

「やっぱり自分の体を知ることが一番大事。それが分かっていなければ、シーズンを通して戦う上でしんどくなる。それはプロになって、色々な場面で感じています。1軍で活躍している選手は、体についての知識量がすごいなと」

 トレーニングや食事はもちろん、投球モーションや打撃スイングなどのメカニズムなど、様々な情報が溢れる今、自分の体を知らなければ必要な情報を取捨選択することはできない。情報に振り回されるのではなく、使いこなしてこそ、「超一流」の活躍はできる。

驚かされた近本の知識量「何でも知っている」

 身近に見習うべき手本は多いものの、中でも特に驚かされているのが、阪神不動のリードオフマン・近本光司外野手だ。プロ6年で5度盗塁王となったスピードスターは、同じ淡路島出身の先輩でもある。村上の阪神入りが決まった後、新人合同自主トレが始まる前に郷里で一緒にトレーニングする機会があったという。

「まだ合同自主トレが始まる前、近本さんと一緒に自主トレをさせてもらったんですけど、体の話になったら知識量がすごくて。自分の体と向き合ってますよね。こうなったのはどこの動きが悪いからだとか、こうしたければどこを動かせばいいとか、体の仕組みや動き方など何でも知っている。本当にすごいな、と」

 近本の知識量に圧倒されたまま終わらなかったのが村上だ。ポジションこそ違えど、プロでしっかりと結果を残している先輩に刺激を受け、自分の体と向き合い始めた。現在もトレーナーに教わりながら、特に肩周りに関する知識を増やし、トレーニングやケアに取り組んでいる。「どう動かせばどんな反応になるか分かってきたので、シーズンを戦う上で疲れにくくなってきていると思います」と体の反応も上々だ。

 野球が部活や遊びではなく、職業となった責任もある。近本に「追いつけ追い越せ」とばかりに知識を増やす村上だが、その壁を越すのはなかなか難しいようだ。

「自分も知識が入ってきていますし、近本さんに近づきたいとは思いますが、近本さんはさらに知識を蓄えるはずなので、ずっと平行線で進む可能性はありますね(笑)」

 たとえ2人の差が縮まらず平行線であったとしても、それぞれ右肩上がりに知識を増やしていけば、村上もいつしか「超一流」の領域に足を踏み入れることになるだろう。偉大な先輩の背中を追いながら、1歩、また1歩と成長の道を歩み続ける。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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