2度の戦力外→育成延長…30歳右腕が抱える“苦悩” 崖っぷちも「なんとか、まだ」
オリックス・育成右腕の小野泰己が描く“野望”
履き潰した何足ものランニングシューズに、汗の染み付いたシャドーピッチング用のタオルが増える。「結局……。考えても考えても、結果は後についてくるものなので。目の前にある自分のできることを続けていくしかないんですよね」。オリックス育成・小野泰己投手は5月に31歳を迎える。大器晩成を信じ続ける日々には、計り知れない苦悩がある。
「まずは『支配下選手登録をされる』という大きな目標があって、そこをクリアできると1軍の試合で登板できる権利がある。今はそこがモチベーションですよね」
シャイな性格で口数も多い方ではない。「なんとかもう1年やらせてもらえるので……」。寂しげな表情から、うっすらと目を細めた。今季の宮崎春季キャンプは育成選手で唯一のA組スタート。「もちろん、選んでもらえて嬉しいです。だけど、B組だったとしても、僕のやるべきことは変わらないです」。さらっと口にするように、10歳下の選手たちとも“競争”になる。
スラっとしたスタイルから、伸びのある直球を武器に生きてきた。150キロ後半を計測することも多々ある。「数字だけを見るのであれば『160キロを出した』いというのが1番のモチベーションですね。それだけじゃないことも、もちろん理解していますけど。単純に……ね。計測してみたいなとは思っていますよ」。剛腕の挑戦は続く。
「160キロは……。記録している人が少ない数値なのでね。今の自分なら挑戦できるところまで来ているなと感じています。昔は150キロが凄かった時代でしたけど、今は『160キロが凄い』という時代になっている。その波に乗ってみたいですよね」
「プロ野球の世界で輝くチャンスをもらっているので、全力でやり抜きたいです」
崖っぷちで怖がっても何も生まれない。今は、心から楽しむしかない。小野は2016年ドラフト2位で富士大から阪神に入団。金本、矢野政権で9勝をマークしたが、2022年オフに戦力外通告を受けた。「1回目、阪神を戦力外になった時は野球人生に後がなくなったという感じでした」。制球に悩む右腕に、救いの手を差し伸べたのがオリックスだった。
2023年は育成契約でスタート。結果を残して4月上旬に支配下選手登録されるも、1軍登板は5試合で防御率6.00だった。同年オフには再び戦力外通告を受け、またも育成契約となった。昨季は2軍で27試合に登板。防御率2.08の成績を残したが“吉報”は届かなかった。
今オフは自由契約選手として公示されたが、育成再契約を結んだ。「ほっとした気持ちの方が大きかったですね。もう1回、挑戦させてもらえる。この年齢になると、野球を辞めている選手も多くなってきているので。なんとか、まだ……。プロ野球の世界で輝くチャンスをもらっているので、全力でやり抜きたいです」。選んで前に出した言葉に、偽りはない。
今オフは豪州で行われたウインターリーグにも参戦。山下舜平大投手のアクシデントによる“代役”での選出だったが、収穫は多かった。「改めて野球が楽しかった。そういう気持ちになれた。今までは結構、考え込んでしまうことが多かったんですけど……。そこに意味はないのかなって」。弾ける笑顔が、成長の証だ。
制球難、投球フォーム変更、2度の戦力外通告に育成再契約――。30歳、茨の道を切り抜けてきた。ずっと背中を押してくれるのは、5年前に結婚した愛妻の存在。家族の分まで、1球に全ての力を込める。信念を貫いたその背中は、もう重たくない。
(真柴健 / Ken Mashiba)