西武に注入された“外の血” 求められる鬼の一面と手腕…黄金期とは「現状かけ離れている」
鷹、ロッテを経て…今季就任した西武・鳥越裕介ヘッドコーチ
昨年最下位に沈んだ西武に、“厳しさ”を導入する存在として期待されているのが、新任の鳥越裕介ヘッドコーチだ。現役時代は中日、ソフトバンクで好守の内野手として活躍し、引退後は指導者としてソフトバンクで今宮健太内野手、ロッテでも安田尚憲内野手らを育てた。西武に携わるのは現役、コーチ時代を通じて初めてだ。
「誰が“鬼”やねん? 勝手にイメージがひとり歩きしていますよ」。宮崎・南郷キャンプ第1クールを終えた4日、鳥越ヘッドはジョークまじりにそう声を張り上げ、報道陣の笑いを誘った。
ソフトバンク、ロッテでは選手からの人望が厚い指導者、そしてノックの名人として知られていた。2021年と2022年にはロッテの2軍監督を務め、2022年に西武のファーム監督に就任した西口文也監督とは、イースタン・リーグの試合でしょっちゅう顔を合わせ、親交を深めた。今回“上司”となった西口監督からは「選手に厳しくも接してくれるし、喝も入れてくれる」と期待されている。
これに鳥越ヘッド自身は「そういう役目があればというか、選手に対して言わなきゃいけない時には言いますが、言わなくてよければ、一生ニコニコしていますよ」とかわしつつ、「西武の選手は今、めちゃめちゃ僕のことを探っているのではないでしょうか。(現役ドラフトでロッテから加入した平沢)大河(内野手)から、いろいろ聞いていると思います。(昨年12月の)安田(ロッテ)の結婚式に出席した時には、益田(直也投手=ロッテ)が『今井(達也投手=西武)から電話で聞かれました』と言っていました。どんなおっちゃんなのか、気にはしてくれていると思います」と笑う。188センチ、92キロと大柄で、厳しい表情で目の前にいるだけでも、確かに威圧感がある。
「“かまってちゃん”には声をかけるようにしている」
西武の現状は“投高打低”で、野手陣の底上げが喫緊の課題。鳥越ヘッドは「たとえば、チーム本塁打数を増やすことは、外国人選手が打たない限り無理だと思いますが、点の取り方はいろいろある。それに、投手力がいいと言われる中、ディフェンスを磨けば、防御率はさらに下がるでしょう。3点勝負だった試合を2点勝利にして勝てればいい。西口監督が目指しているのも、そういう野球だと思います」とあくまで守りを優先する考えだ。
自身は昭和、平成のスパルタ式で育ってきたが、今どきの若い選手に対し怒声、罵声、頭ごなしの指導がきかないことは、重々承知している。「もちろんです。主役は選手ですから、選手にどう合わせるかを考えています。押しつけたところで、いいパフォーマンスを出せなかったら意味がない」とした上で、「昔の人に比べると、最近の若い子たちは素直で、癖のない子が多いですよ。子どもっぽい“かまってちゃん”も多い。そういう選手には、こちらから声をかけるようにしています」と語る。
西武のコーチ陣は今年、西口新監督の下、“外の血”を加えて一新された。鳥越ヘッドと同じく、新任の仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチも、西武のユニホームを着るのは初めて。常任のコーチ就任が初めての大引啓次内野守備・走塁コーチも、現役時代には西武に在籍したことがない。
そんな中で鳥越ヘッドは「監督、コーチは宿舎ホテルの食事会場で盛り上がり、いい会話ができています。野球に関係のない話もまじえて、チームとしてまずスタッフの間に、いい雰囲気ができつつあると思います」と手応えを感じており、「いいものを選手に提供できれば」とうなずいた。
「西武には強いチームの伝統があると思う。実際、現役時代から敵として戦ってきた僕にとって、手ごわい相手でした。当時と比べると現状はかけ離れているので、どう持っていくか……」。名伯楽が低迷する獅子をどう押し上げるか、楽しみだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)