プロ野球から社会人転身も「サラリーマンになるのが怖かった」 西武4番が選んだ“第2の人生”

南郷キャンプでファン向けのノック企画に登場した高木大成氏【写真:宮脇広久】
南郷キャンプでファン向けのノック企画に登場した高木大成氏【写真:宮脇広久】

元西武・高木大成氏、南郷キャンプで初日から4日連続“ノック企画”に登場

 かつて西武で左打ちのスラッガーとして活躍した高木大成氏は現役引退後、球団職員を経て、2011年12月から足かけ6年間、ホテルマンとしてサラリーマン生活を送った。2017年4月に球団へ復帰し、現在は事業部部長。今年の宮崎・南郷キャンプでは初日から4日連続でファンとの交流イベント「高木大成さんのノックを受けてみよう!」を開催し、4日間合計226人のファンに向けてノックバットを振った。

 ノックイベントは選手の練習終了後、室内練習場に希望するファンを集めて行われ、参加者は老若男女を問わず球団貸付のグラブを手に白球を追った。高木氏は「ここの人工芝は、ベルーナドームと同じ物を使用しているんですよ~」とトリビアを披露しながら盛り上げる。終了後には、高木氏の現役時代を知るファンが、サインや写真を求めて長い列をつくった。「うれしいですね。僕が現役を引退してから20年、ライオンズをずっと好きでいてくれるのですから」と満面に笑みをたたえる。

 高木氏は神奈川・桐蔭学園高、慶大で“打って走って守れる捕手”として鳴らし、1995年ドラフト1位指名で西武入りした。2年目に一塁手に転向し、130試合出場7本塁打24盗塁、打率.295。3年目も134試合出場17本塁打15盗塁、打率.276と活躍し、2年連続ゴールデン・グラブ賞にも輝いた。10年間で720試合599安打56本塁打67盗塁、通算打率.263の実績を残したが、4年目の春季キャンプで右足首の靭帯を断裂したのをはじめ、相次ぐ怪我に悩まされ続けた現役生活でもあった。

 2005年限りで引退後は6年間、球団職員として事業系PRなどに携わるかたわら、11年からプロ経験を買われて、平日のナイター終了後に行われるイベント「サラリーマンナイト!」でノッカー役を務めた。これが、今キャンプのノック企画に結びついているわけだ。

 そして2011年12月、西武グループのプリンスホテルへ異動を命じられる。「32歳で現役を引退した時、サラリーマンになることが怖かったです。当時プロ野球選手の現役引退の平均年齢は29歳で、今もそれほど変わらないと思いますが、その年齢まで野球に打ち込んできて、ポンと野球以外の所に行くのは勇気がいることです。38歳で全くわからないホテル業に携わることになった時も、不安でした」と吐露する。

元西武ヘッドコーチ須藤豊氏から授かった「プロ野球選手である前に人であれ」

 それでも“野球以外”の仕事に、ひたすら打ち込んだ。プリンスホテルでは「マーケティング企画宣伝の仕事に携わりました。たとえば、12月にはクリスマスの宿泊プランやレストランのクリスマスディナー、年末年始にはニューイヤーをホテルで迎えるプラン、桜の咲く季節には桜を愛でる企画などを考えました。いかにホテルライフを楽しんでいただくかを考え、ホテルの付加価値を上げる仕事でした」と振り返る。

 ホテルマンとして足かけ6年。2017年4月には再び球団へ異動となった。現在の肩書は事業部部長。「放映権に関わる仕事で、キャンプの映像や、シーズン中のホームゲームの映像をつくり、テレビ局に販売したり、ネット配信する仕事です」と説明する。その傍ら、昨年は「帰ってきたサラリーマンナイト!」と銘打ち、コロナ禍を挟んで久しぶりに名物企画が復活して高木氏もノッカーを務めた。

 自身の半生を振り返り「波乱万丈と言われれば、そうかもしれません。ホテルマンとしての6年間は大変でしたが、いい経験になりました」と述懐する。「ホテルマンの時に学んだことは、組織としての情報共有の大切さ。そして、人脈を広げることもできました。仕事以外のことでも、人生の中で相談できる方々がいます」とうなずく。

 若手の頃に当時西武ヘッドコーチを務めていた須藤豊氏から授かった「プロ野球選手である前に、人であれ」という言葉が、いま実感を伴って脳裏によみがえっている。須藤氏も現役引退後、サラリーマン生活を4年間送った後、球界に復帰して監督、コーチを歴任した経緯がある。

 NPBでは毎年、戦力外や現役引退でユニホームを脱ぐ選手が100人を超える。セカンドキャリアを充実させるのは簡単なことではない。高木氏が後輩たちにアドバイスを送るとすると、どんな言葉だろうか。

「僕がいま思うのは、選手でいられる間は目いっぱい選手として頑張って、あとのことを考えるのは辞めてからでも絶対大丈夫ということです」と力を込める。「目の前のことに一生懸命になれる人は、次に行っても一生懸命やれると思います。もちろん、プロ野球選手には体力も、集中力もありますし、組織における上下関係も、体育会系にいれば自然と身についているはず。そういうものが武器になると思います」と続けた。

 セカンドライフを切り開く秘訣は結局、目の前の仕事に全力で当たることしかない。それはプロ野球のみならず、あらゆる職業において言えることかもしれない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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