戦力外→育成、昇格も再びの“降格” 不屈の30歳「年齢なんて」…紆余曲折の野球人生

春季キャンプで練習するオリックス・小野泰己【写真:北野正樹】
春季キャンプで練習するオリックス・小野泰己【写真:北野正樹】

オリックス・育成の小野泰己「本気で160キロは狙ってました」

 紆余曲折の野球人生に区切りをつける。オリックスの育成右腕・小野泰己投手が、豪州ウインターリーグでみせた8試合連続無失点の“無双投球”を春季キャンプで継続し、支配下選手登録へ向けて猛アピールする。「失点0は意識していました。新鮮で充実した1か月半でした。行ってよかったですね」。初となった海外武者修行を笑顔で振り返った。

 突然訪れたチャンスを生かした。山下舜平大投手、高島泰都投手、齋藤響介投手の参戦が予定されていたが、山下の故障で急遽、派遣が決まった。他球団でも巨人・秋広優人内野手やロッテ・吉川悠斗投手ら若手選手が派遣される中で、30歳の育成選手の派遣は異例だった。小野は「年齢なんて考えませんでした。逆に、行かせてもらえることがありがたかったですね」と前向きに捉えたという。

 派遣チームの「Melbourne Aces(メルボルン・エイシズ)」では主に抑えとして登板し、8試合連続の無失点投球。最終登板で3失点し、自責点「0」は達成できなかったが、登板9試合で1勝1敗2セーブ、防御率2.53の好成績だった。

 特筆すべきは、10回2/3で奪った18三振だ。最速159キロのストレートが冴えた。「そんなに速い球にバッターが対応できていなかったんでしょう。それでありがたいことに三振が取れた。それだけです」とは、いつも謙虚な小野らしい言葉だ。ただ「本気で160キロは狙ってました」というほどだから、好調ぶりがうかがえた。

 ベンチで投球を見ていた齋藤は「小野さんは本当に無双でした」と目を丸くして話すほどの投球だった。小野の心残りは、失点「0」で終われなかったこと。ピンチの場面でのパスボールから連続3点を献上してしまった。決めにいったスライダーを捕手が後逸したのだが「狙ったところとは違うところに投げてしまって。僕の失投です。抑えられると思って投げたボールだったのに」と悔しがる。

岸田監督から受けた助言「真っすぐがいいんだから、どんどん攻めて行けばいい」

 小野は折尾愛真高(福岡)、富士大を経て2016年ドラフト2位で阪神に入団。プロ2年目の2018年に23試合に先発して7勝7敗をマークしたが、5年間通算69試合、9勝15敗、防御率4.65。2022年10月に戦力外通告を受け、オリックスと育成契約を結んだ。

 2023年4月には支配下選手登録されたが、ウエスタン・リーグ最終戦後に行われた社会人との練習試合で左脇腹を痛めて緊急降板し、再び育成契約になった。モットーは「楽しく」。阪神からオリックスに育成で入団した時から、明るく楽しく野球に取り組むことを決めた。阪神時代からの柔和で謙虚な姿勢は変わらないまま、前を向き続けることだけに専念した。

 阪神時代から課題とされてきた制球も「真っすぐがいいんだから、どんどん攻めて行けばいい」という岸田護監督(当時・投手コーチ)や平井正史投手コーチのアドバイスで、腕を振ることに集中することで改善を図りつつある。岸田新監督が指揮を執る2025年の春季キャンプで、1軍メンバー中心のA組に育成選手として唯一選ばれた。大きな期待を胸に受け止め、戦力としてアピールする。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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