イチロー氏から滲む「超一流」の風格 厳しかった評価…“らしさ”引き出した小学生の質問

2日に石川県七尾市で開かれた松井秀喜氏の少年野球教室にサプライズ参加
マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー氏は2日、松井秀喜氏(ヤンキースGM特別アドバイザー)が石川県七尾市で開催した少年野球教室にサプライズで参加した。小学4~6年生55人を前に、自身の野球観、人生観の一端を披露するシーンがあった。
「もしプロ野球選手になっていなかったら、何になっていたと思いますか?」。子どもたちがイチロー氏と松井氏を中心に輪となっての“質問コーナー”で素朴な疑問がぶつけられた。
「面白い質問だけれど、(答えるのは)難しいですね」と苦笑する松井氏に、イチロー氏は「松井選手の場合、それは無いと思う。黙っていても『プロ野球選手になって下さい』と言われるだろうから」と助け船を出した。その上で「僕はドラフト4位で何とかギリギリ、プロ野球選手になれたスタートでした」と振り返った。プロ入り当初も、メジャー移籍当初も、華奢に見える体格で過小評価されがちだった記憶は、イチロー氏にとって忘れられない屈辱だったとも、超一流となって見返すための原動力になったともいわれている。
そして、「職業ではないけれど、『生まれ変わったら何になりたいか?』と聞かれれば、僕はセミと言っている」と答えた。セミに関しては“7年7日”という言葉がある通り、7年間は幼虫として土の中で過ごし、成虫となって地上に出てからは7日で死んでしまうと言われてきた。最近の研究では、寿命は種類によって幅があり、幼虫が地中で過ごすのが1~5年、成虫になってからは10日~1か月程度ともいわれているが、イチロー氏は「いずれにせよ、土の中にいるのは年単位で、地上(での寿命)は短い。そういう生き方っていいなと思う」と続けた。輝かしい成果を1つ出すには、その何百倍もの人知れぬ努力が必要──そんなイチロー氏の野球観、人生観が垣間見えた瞬間だった。
「打つことも投げることも走ることも、力を入れたらうまくいかない」
「打球を遠くへ飛ばすにはどうしたらいいですか?」との質問もあった。いかにも現役時代に日米通算507本塁打を量産した松井氏向きの質問だったが、稀代のヒットメーカーだったイチロー氏にも持論がある。「正確に捉えるということ。バットのどこで捉えれば飛ぶのか、その感覚を覚えることが大事。決して力ではない。打つことも、投げることも、実は走ることも、体に力を入れて頑張っても全然うまくいかない。リズムよく、バランスよく、ということを大事にしてほしい」と強調したのだった。
「対戦した中で一番凄い投手は誰でしたか?」との質問には、松井氏がMLB通算219勝右腕のペドロ・マルティネス氏の名前を挙げ、「球も速いし、コントロールもいい。皆さんも1度、YouTubeで見てみて」と回答。イチロー氏は「(マルティネス氏は)どれも一級品だったね」と同意した上で、こう語った。
「僕が嫌だったのは、こちらがどれだけ結果を残しても向かってくる投手。逆に結果が出ていなくても、かわしてくる投手、攻めてこない投手、気持ちが入っていない投手には、負けた感覚がなかった」
そして「自信なさそうにしている相手は怖くない。反省は裏で、謙虚にやればいい。うまくいってなくても、嘘でもいいから、グラウンドには堂々と立つこと」を子どもたちに強く勧めた。
やはり、日米を股にかけて足掛け28年、超一流として活躍し続けたイチロー氏の言葉は、一言一言に教訓が詰まっている。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)