「オオタニの話題は最後だ」 7年前は質問厳禁も…大谷へ受け継がれたカーショーの思い

カーショーは2017年オフの大谷争奪戦で直接出馬も実らず「オオタニの話題は最後にしてくれ」
あの凍りつくような空気は今でも覚えている。2018年3月7日。エンゼルスのキャンプ地・ディアブロスタジアムのクラブハウス内での出来事だ。オープン戦登板の取材を終えたドジャースのクレイトン・カーショー投手は、明らかにイライラしていた。
「もうオオタニの話題はこれで最後にしてくれ」
初対戦となった打者・大谷の印象や2017年オフに自らも交渉の席についた入団交渉……。大谷に関する質問をひとしきり答えた後、20人近くいた日米の報道陣へドスの利いた声で言い放った。
たった一言だったが、すでに3度のサイ・ヤング賞を受賞していたレジェンドだ。その言葉は重い。「カーショーにはもうオオタニのことは聞けない」。カーショーへの「オオタニ」は禁句となった。
2017年12月。ワールドシリーズまで戦ったカーショーは、短いオフの家族サービス中に大谷の入団交渉でロサンゼルスまで呼ばれた。しかし、大谷が移籍先に選んだのはエンゼルス。当時、ドジャースの所属するナ・リーグには指名打者制がなかった。後々にドジャース番記者から聞いた話だが、「オオタニは最初からドジャースを選ぶ気なんてなかった」と不満を漏らしていたとも。2人には“因縁”があった。
2023年オフ、エンゼルスからFAとなった大谷は早くからドジャースが移籍先の最有力候補に挙がっていた。だが、メディア間では「カーショーの存在がネックになるのでは?」と言われるほどだった。晴れてドジャースへ移籍となったが、キャンプ中から話題の中心となった大谷に関する質問はなかった。

今春の東京シリーズ中に大絶賛「球界最高の選手であることを我々全員が知っている」
だが、同じドジャーブルーのユニホームを着てからは分かりあうのは早かった。登板間は誰よりも早くグラウンド入りするなどトレーニングに妥協を許さないカーショーは、前人未到の54本塁打&59盗塁を達成した大谷について、「投手のリハビリを行いながら本塁打と盗塁を増やす。練習での細かいところへのこだわりは見ていてクールだ」と日々の取り組みを評価。今春のカブスとの東京シリーズで来日した際には、もう大絶賛だった。
「オオタニが野球界に、世界に与えた影響。球界最高の選手であることを我々全員が知っている」
一方の大谷も日本ハム時代からカーショーを憧れの選手の1人に挙げていた。今年8月末には、こんな畏敬の念を口にしていた。
「登板日に集中してるところを見ると、この集中力を長い年月を続けていくのは、それだけでも大変なことだと思います。その中で素晴らしい成績を残していくのは尊敬に値することですし、毎日見ていて勉強になることばかり」
18日(日本時間19日)に行われたカーショーの引退会見。大谷はカーショー家族やチームメート、球団関係者、報道陣でビッシリ埋まった会見場の一番後ろから一言一句を聞き入った。カーショーは「一番の思い出」について、こう語った。
「やはり勝つことだ。2020年に優勝できたのは最高だった。2024年は僕自身は戦っていなかったが、チームの優勝に立ち会えたのは特別な瞬間だった。個人的にはノーヒッターや今年の3000奪三振も特別だった」
絶対的なエースとしてドジャース王朝を築いてきたカーショー。その思いは、大谷にも受け継がれる。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)