西武戦力外から1年…異国挑戦も「帰国しようと」 直面した想像以上の“過酷な経験”

元西武・伊藤翔【写真:本人提供】
元西武・伊藤翔【写真:本人提供】

西武を戦力外となっていた伊藤翔

 2024年オフに西武から戦力外通告を受けた伊藤翔投手は、今季メキシカンリーグのカンペチェ・パイレーツでプレー。入団4年目の2021年に右肘のトミー・ジョン手術を受け、オフに育成契約に移行。その後は支配下復帰を掴むことはできなかった。西武では4度の戦力外通告を受けたが、それでも日本から遠く離れたメキシコで野球を続けている。

 徳島インディゴソックスから2017年ドラフト3位で西武に入団。独立リーグからドラフト上位指名での入団、さらに、高校卒業後1年でのNPB入りは当時話題になった。ルーキーイヤーは16試合に登板し3勝を挙げたが、その後は勝ち星を挙げることはできなかった。2024年オフに4度目の戦力外通告を受けた後、現役続行を目指して12球団合同トライアウトに参加。社会人チームから声がかかったが、選んだのは異国での挑戦だった。

「NPBのチームに戻れるのが一番でしたけど、それができないなら、広い視野で野球ができるところを探そうと思いました。日本だけじゃなく、世界各国いろんなところで野球をやっている選手がいる。自分もそういう経験をしたら、何か新しいことに気づくんじゃないか。野球以外の部分で成長できるんじゃないかと思いました」

 家族も「自分の納得のいく形が一番」と背中を押してくれた。メキシカンリーグのメキシコシティ・レッドデビルズに入団。不安はあったが、海外で野球をする楽しみのほうが大きかった。レッドデビルズは昨シーズンメキシコ王者に輝いた強豪。スプリングトレーニングには、投手だけでもメジャー経験者を含む約30人が参加していた。

 メキシコシティでは、日本人の同僚の存在が助けになった。2023年まで楽天でプレーした安樂智大投手は、チームの主力として活躍している。「技術面だけでなく、生活面や栄養の摂り方なども聞きましたが、質問したことには包み隠さず全て答えてくれます。同じチームにいた時は、毎日一緒にキャッチボールをして、終わるたびに改善点と、それに対するアプローチの仕方をアドバイスしてくれました」と感謝する。

5月からマイナー経験…考えた帰国

 しかし、体が大きくスピードボールを武器にする投手たちの中で、伊藤は苦戦。ロースターに入ることができずマイナーのプレーとなった。さらに、これまでとは程遠い練習環境に、一度は日本に帰ることを考えた。

「5月の初めから1か月くらいマイナーで過ごしていました。マイナーはウエートトレーニングをする環境がなくて、体づくりを食事で補おうとしても、山の中に住んでいたので近くにコンビニもない。あと何年プロとしてできるかわからないのに、成長できないまま終わっていくのが嫌でした。この環境だと後悔する。このまま昇格がないなら、日本に帰ろうと思いました」

 メキシコでのプレーを諦めかけた時、現在プレーするカンペチェ・パイレーツへの移籍が決まった。メキシカンリーグは8月7日(日本時間8日)にレギュラーシーズンが終了。打高と言われるリーグで10試合に登板し、3勝2敗、防御率5.28の成績を残した。もう1度NPBの舞台に立ちたいという気持ちはもちろんあるが、メキシコの野球を経験した今、もっといろいろな国で野球をやってみたいという夢も生まれた。

「自分が選べる立場ではないですが、チャンスがあるのであれば挑戦したいです。将来的に、野球に携わる仕事がしたいと思っています。さまざまな国の文化を経験して、若い選手、そして子どもたちにアドバイスができるようになりたいです」

 日本から遠く離れたメキシコで再スタートを切った右腕はまだ26歳。自身の更なる成長のため、異国のマウンドで腕を振り続ける。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY