「真っすぐに見せる」九里亜蓮が見せる達人の技 ブルペン捕手が舌を巻く探求心

オリックス・九里亜蓮【写真:栗木一考】
オリックス・九里亜蓮【写真:栗木一考】

打者を惑わす変化球は「ピッチトンネル」がカギ

 オリックスの九里亜蓮投手が、チームトップの10勝を挙げ投手陣を引っ張っている。多彩な変化球で打者を翻弄する九里の秘密を、ブルペンでボールを受けるアシスタントスタッフの叺田本気(かますだ・もとき)さんに聞いた。

「すごく研究される方ですね。毎試合、意識されていることが違うようですし、ブルペンで試したボールがよかったから次の試合で使ってみるとか、シーズン中でも大胆に変えていらっしゃいます」。叺田さんが九里の向上心の高さを明かしてくれた。

 叺田さんは大阪府出身。菊川南陵高、中京学院大、独立リーグ「栃木ゴールデンブレーブス」で強肩・強打の捕手として活躍。テストを経て入団した、お笑いコンビ「ティモンディ」高岸宏行とバッテリーを組んだことでも知られる。2022年からオリックスにアシスタントスタッフとして入団。大阪・舞洲の球団施設で2軍の若い選手のボールを受けるだけでなく、試合を控えて調整する1軍の投手の相手も務める。

 九里は、150キロ超のスピードこそないものの、打者に向かっていくフォームから気迫のこもったボールを投げ込み、多彩な変化球で打ち取る投球が身上。「変化球でいえば、もっとすごい球を投げる投手は結構います」という叺田さんが驚くのは、「真っすぐに似たような球種が多いこと」だという。

 「初動は真っ直ぐの軌道で、ピッチトンネルを通ってから曲がったり、打者に向かってきたり変化をする感じです。打者に(変化球を)真っ直ぐに見せるのが上手いと思います」。ピッチトンネルとは、マウンドからホームベースまでの18.44メートルのうち、ベースの手前約7メートルにあるポイントをいう。ピッチトンネルを通過した直後にボールが変化するため、打者の対応が難しくなるというわけだ。

 叺田さんは言う。「若い投手は、初めから(ピッチトンネルまでの)ラインを外れてしまうことが多いのですが、九里さんはトンネルをくぐってからの変化が上手ですね」。

 投げ込んだ後、いつも「今日はどんな感じだった?」と聞かれるという。「キャッチャー目線での感じ方と、九里さんのイメージしたのが一致するのか確かめているのでしょうね。『そう感じているのなら、ここは違うな』というように、修正されているのだと思います。データには表れないところを大事にされているように感じます。キャッチボールで試したボールを、いきなり自分のものにできるなど器用ですし」。

 九里の研究熱心には定評がある。春季キャンプ初日の練習で、宮城大弥投手に「どんな意識でキャッチボールをしている?」と尋ねる場面があった。また、チームが移動日の投手指名練習では、田嶋大樹投手や宮城、曽谷龍平投手らとのキャッチボールで、握りを教え合ったりする姿も多く見られる。類まれな研究心と向上心が、打者を惑わせる投球術の源だ。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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