怪我で消えた野球の道 グラウンドに立てなくても…女子高生の決意、都城東マネジャーの夢

都城東高校野球部のチーフマネジャー・伊波千尋さん【写真:岡部直樹】
都城東高校野球部のチーフマネジャー・伊波千尋さん【写真:岡部直樹】

東京の高校野球の「今」に迫る、豊嶋アナがレポート

 東京の高校野球において、都城東は甲子園出場のある“公立の雄”として知られている。東京の高校野球番組を10年以上取材を続けるフリーアナウンサーの豊嶋彬氏が取材で出会ったのは都城東高校野球部のチーフマネジャー、伊波千尋さん。「選手に楽をさせるためにいるんじゃない」という言葉には、献身的な裏方というマネジャー像を覆す強い意志が込められていた。中学時代に手術を伴う怪我で選手の道を断たれた彼女は今、データ分析と組織運営で「勝利」を目指す。選手と肩を並べて甲子園を夢見る、まっすぐな瞳を持つ17歳の姿だった。

 都城東は、夏2回の甲子園出場の実績を持つ。伊波さんはその門を叩いた。「通いやすさと学力に加えて、甲子園に行った実績がある。ここなら夢に一番(夢の舞台に)近い場所だと思ったんです」。かつて選手として白球を追った彼女にとって、甲子園は諦めきれない夢。中学時代は女子野球の体験会にも参加したが、結局は男子とプレーする方が楽しかったという。高校でも選手を続ける選択肢はゼロではなかったが、中学での大怪我が転機となった。

 手術を伴う怪我は、身体だけでなく心にも深い傷を残した。一度はモチベーションが完全に尽きてしまったという。しかし、時間が経つにつれ、野球への思いが再び芽生えてきた。「まだ野球に関わりたい」「甲子園を目指す高校野球が一番輝いて見えた」。選手として立てなくとも、別の形で夢の舞台を目指すことはできる。そう決意した彼女は、マネジャーとして新たな挑戦を始めることを選んだ。グラウンドに立つ方法は、一つではないのだから――。

 現在の業務内容は想像を超えて多岐にわたる。スコアラーや動画撮影といった基本的な記録業務はもちろん、部費の管理、父母会との連携、イベントの企画運営まで担当している。さらに特筆すべきは、Excelを駆使した選手の体重管理やランキング表の作成だ。データを分析し、選手のコンディションを可視化する。練習の合間にはプロテインを作り、おにぎりなどの補食も準備する。その姿はもはや高校生というより、プロチームのスタッフのような専門性を感じさせる。

選手として野球を諦めないといけない現実と向き合った

 しかし、伊波さんが最も大切にしているのは「選手との対等な関係」だという。「マネジャーがいない学校と同じ最低限のことは選手が行い、マネジャーはその『プラスアルファ』を提供する」。この哲学には、甘やかしではなく共に戦うパートナーとしての覚悟が表れている。ミーティングでも積極的に発言し、時には厳しい意見も述べる。選手がプレーしやすくなるよう、そして勝率が上がるように動く。その姿勢は選手たちにも伝わり、互いを尊重し合う信頼関係が築かれている。

 1年生の時は余裕がなかったが、2年生になった今は少しずつ周りが見えるようになってきた。「周囲の高校生を見て『いいな』と思うこともあります」。放課後を自由に過ごす同世代の姿に、羨ましさを感じる瞬間もある。それでも彼女は迷わない。「部活を通して今が充実している」。高校野球という、今しかできないことに全力を注ぐ日々。その選択に後悔はない。最後までやり切ると決めているから。

 来たる最後の夏に向けて、思いは日増しに強くなっている。「負けたら終わり」という実感はまだ湧かないが、「引退はしたくない」という気持ちは確かだ。できるだけ長くこのチームで野球がしたい。試合当日、記録員としてベンチに入るか、スタンドで撮影を担当するかは持ち回りで決まる。最後の瞬間がどちらになるかは運命次第だが、「どちらにいても役割を全うし、満足できる自信がある」。その言葉には、場所ではなく、チームの勝利こそが最優先という信念が込められている。

 選手として野球を諦めざるを得なかった過去。その経験があるからこそ、彼女の「プラスアルファ」への思いは誰よりも強い。データという武器を手に、組織運営という戦略を駆使して、チームを甲子園へと導く。豊嶋氏が出会った17歳は、グラウンドの外から勝利を手繰り寄せようとしていた。かつて選手として追いかけた夢を、今度はマネジャーとして掴もうとする伊波さん。そのまっすぐな瞳には、高校生らしい純粋さと、夢を諦めない強さが同居していた。

【筆者プロフィール】
豊嶋 彬(とよしまあきら)1983年7月16日生まれ。フリーアナウンサー、スポーツMC。2016年から高校野球の取材活動を始め、JCOMの「夏の高校野球東西東京大会ダイジェスト」のMCを務めている。高校野球への深い造詣と柔らかな語り口を踏まえた取材・実況が評価されている。スポーツMCとしての活動のほか、テレビ番組MCなど幅広く活動中。Xのアカウントは「@toyoshimaakira」、インスタグラムは「@toyoshimaakira」。

(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)

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