敵将も認める完全復活の兆し 黒田博樹の復調を証明する「フロントドア」
鮮やかな「フロントドア」で奪った見逃し三振
鮮やかな1球だった。敵地アナハイムでのエンゼルス戦。2回に先頭打者のイアン・スチュワートを追い込んだヤンキースの黒田博樹投手(39)は、内角低めへ生命線のシンカーを投じた。この日最速となる93マイル(約150キロ)の速球が、大きく変化してストライクゾーンの内角いっぱいに決まる。黒田に対して16打数8安打の打率5割と相性の良かったスチュワートのバットはピクリとも動かなかった。
内角のボールゾーンから変化してストライクゾーンへと入ってくるボールをメジャーでは「フロントドア」と呼ぶ。黒田が左打者に対して投じる「フロントドア」のシンカーは、最も得意とするボールの1つだ。ただ、この試合の前まで2勝3敗、防御率5・14と苦しんでいた今季は、開幕から「フロントドア」が決まる場面はあまり見られなかった。いや、このボールを選択すること自体が少なかった。
試合後、本人はこの1球についてこう振り返っている。
「僕自身も大きかったですけど、やっぱりバッター(の脳裏)に残るので。彼(スチュアート)だけじゃなくて、ほかの左バッターに対しても、そういうボールというのは残る。あれは向こうの左バッターに対してはすごく大きかったんじゃないかなと思います」
今季、ベテラン右腕を最も苦しめてきたのは変化球の精度だった。スライダーは変化せず、スプリットも安定しなかった。その結果として、投球の幅が狭まってしまっていた。ただ、速球で左打者の内角を突く場面が昨年までに比べて目立たなかったことも確か。新加入の捕手ブライアン・マッキャンのリードによる影響も大きかったのだろう。
だからこそ、あの1球をあの場面で投じ、見逃し三振を奪ったことには、大きな意味があった。この試合だけでなく、今後の投球の組み立てが変わってくる可能性があるからだ。