黒田博樹は“デジャブ”と自虐気味 それでも今や日本人右腕がヤンキースのエース
自身の不運にも笑顔
「もうデジャブのよう」
20日(日本時間21日)のレッズ戦後、黒田博樹はそう自虐的に話し、報道陣を笑わせた。
何がデジャブなのか。ヤンキースは2-1と1点リードの8回、中継ぎのベタンセスがフレーザーに本塁打を浴び、黒田の勝利が消えてしまったのだ。ヤンキースは同点とされた後、9回にマッキャンのタイムリーヒットでサヨナラ勝ち。チームは接戦を制して後半戦スタートから3連勝を飾ったが、黒田の7勝目(6敗)はお預けとなった。
「一番はチームが勝てたことが良かった」
その言葉は本心だろう。だが、黒田は間違いなく“不運な男”だ。マウンドに上がれば味方打線の援護が少なく、勝ち投手の権利を得てマウンドを降りても追いつかれてしまう。そんな場面はこれまでも幾度となくあった。
6月以降調子を上げつつある黒田はこの日も力投。1回をいきなり3者連続三振に仕留めると、2回以降は毎回ランナーを背負いながらも要所を締めて無失点に抑えた。5回には味方のエラーをきっかけに1点を失ったが、それ以外は点を与えずに6回2/3を投げて、3安打6奪三振2四球で自責0。好投手ジョニー・クエトとの投げ合いにも一歩も引かず、5回で降板した相手よりも長く投げ抜いた。しかし、勝ち星だけがするりと逃げていった。
「何の星まわりか分からないですけど、いい投手ばかり当たってしまう。投球数以上に体力と集中力を使うし、そういう意味では同じ球数でも疲労度は違う」と黒田。「ゲーム展開を考えれば1点がすごく重い感じになると思っていた」とも話し、5回の失点を悔やんだ。それでも、6月以降9試合の登板で7試合目となるクオリティー・スタート(6回以上を自責3以内)は誇れる数字だ。
前回登板のオリオールズ戦でも7回を投げて3安打2失点と好投しながら、打線の援護がなく、チームは延長戦の末に敗戦。その際、拙守で足を引っ張ったジーターも「黒田を助けられなかった」と悔やんでいる。今年だけでも、地元紙に「黒田の力強い投球を台無しに」という見出しが何度躍ったことか。
それでも「天命を待つしかない」
それでも、本人は自分のやれることをやり続けるしかないと考えている。
「勝ちがつけば一番いいのかもわからないけど、そこは自分ではコントロールできないところでもある。まずは自分のコントロールできること、調整なり、コンディションなり、色んなことをして、あとはもう、天命を待つしかない」
39歳のベテラン右腕はこれまでも辛抱強く投げ続けてきた。結果、防御率も4月は5・28と低調だったが、5月は4・00、6月は3・52、そして7月は2・63と向上し続け、通算でもついに4月12日以来の3点台となる3・88となった。
この日でメジャー通算200登板に到達。うち先発は199試合。先発試合数で見れば、日本人投手では野茂英雄氏に次いで2番目の数字だ。
「今日みたいに悔しいというか、自分なりにいい投球をしても勝てない試合も当然ある。そういう試合をたくさん経験してきた中で、自分のやれることを積み重ねていく結果がそういう一つの区切りの数字になったと思う。そのアプローチは変えることなく、自分のやれることを続けていくしかない」
ヤンキースでただ一人、開幕から先発ローテーションを守り続けている黒田。地元メディアの中には「現時点で黒田がエース」とする声もある。この日の99球の力投は自身の勝ちにつながらず、“デジャブ”に落胆したかもしれないが、チームの勝利に貢献したことは間違いない。今やその右腕にヤンキースの命運が託されていると言っても過言ではない。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count