大会最年少監督が率いる初めての夏 釧路を代表して戦う武修館高校の素顔

週の半分は生徒と夕食を共にする26歳の青年監督

 個人的な話だが以前より武修館は気になるチームだった。札幌から車で6時間。冷涼な道内でも気温が上がらず、8月の平均気温は20度前後で深い霧に覆われる。冬は氷点下20度を超すのが日常の釧路唯一の私立校。07年、09年に21世紀枠候補校にも選ばれた。

 その環境に私立強豪校というイメージはない。

 プレースタイルは愚直で一生懸命。入場行進や整列する姿勢もよく、四球で一塁へ走る打者はバットを置くことが徹底されていた。

 この夏は昨秋突然の指導者交代騒動に端を発する数々の困難を乗り越えた部員たちがみせた意地の甲子園でもある。

「釧路勢は(戦力的に)厳しいぞ」

 昨年の秋季大会を観戦するために訪れた釧路市民球場で耳にした。もともと中学野球が強い地域だが管外の帯広や旭川、札幌などへ好選手が流出していた。地域的にも冬にはスピードスケートやアイスホッケーで鳴らす少年も多いがウインタースポーツに越境入学は当たり前。そんな特殊な要因もあるが、やはり実績だろう。

 実際、昨夏の北北海道大会では釧根支部代表の3校とも初戦敗退、昨秋の全道大会は2校とも初戦コールド負け(武修館は2対9白樺学園・8回コールド)、今春も武修館が駒大苫小牧に0対6で敗れるなど、苦戦が続いていた。

 今春就任の小林正人監督は札幌出身の26歳で釧路での生活は初めて。部員の半数以上が生活する寮に隣接する家を借り週の半分は生徒と夕食を共にする。指導者を志し北海学園大を卒業後、北海学園札幌のコーチを経て就任。支える36歳の石原敏樹部長は兵庫県出身で育英から亜大で活躍し、指導者として川之江(愛媛)、中京(岐阜)でコーチ経験がある。

 二人の指導者が感謝するのが選手の素直さだ。「アウェーに飛び込む覚悟」の小林監督の野球への熱さを感じた選手たちが「一生懸命に話を聞いてくれた」(石原部長)。

 釧路市内の学校が甲子園へ出場するのは1979年(昭和54年)夏の釧路工以来35年ぶり。甲子園を決めた旭川スタルヒン球場には小林監督が3月まで指導していた教え子の姿があり、勝利監督インタビューのあと彼らを見つけると童顔をほころばせ、人間教育にこだわり続けた前任者のおかげ、と静かに涙をぬぐった。

 八戸学院光星との試合が予定されている17日はお盆休み最終日となる日曜日。満員が予想される聖地に大会最年少監督と素直な選手たちのさわやかな緑の風が吹き抜けるだろう。

(原稿提供:Baseball Nine)

長壁明●文

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