パ審判歴約30年の男が見たパの強打者 落合博満とイチローの共通点とは?
山崎夏生さんの“審判小噺” 落合氏はボールと思ったことをストライクと判定されると…
1982年からパ・リーグの審判員を務めた山崎夏生さんは、2018年に審判技術指導員を退職した後、審判の権威向上を目指して講演や執筆活動を行っている。これまでも多くのパ・リーグのスターたちを近い距離で見てきた。西武・清原和博、近鉄・野茂英雄、ロッテ・落合博満……今回は思い出の打者と最近のプロ野球について、語ってもらった。
――パの打者で印象に残っている選手はどなたですか?
「僕が見てきた中で、傑出した打者といえば右の(ロッテ)落合博満選手、左の(オリックス)イチロー選手ですね。共通しているのは、バットコントロールが素晴らしい。手とバットが“繋がっている”ような感じがします。例えば、140キロのボールって、多少、野球をかじった人間だったら、グローブで獲ることはできるでしょう。けれど(2人は)140キロのボールを捕球するような感じで手と繋がっているバットでとらえているような感じがしましたね」
――近いところから見ていて、打席に入る時の雰囲気はどのように感じましたか?
「見た目通りですね、ちょっと、そっけない感じです。軽く会釈する程度で、知らーん顔している。イチロー選手もそうですね、打席入ってきた時の集中力はすごい。審判のことなんか何も見てないって感じで」
――では、審判の判定にモノを言うこともなかった?
「落合選手も、イチロー選手も、一切なかったですね。落合選手は選球眼もよかったですね。王(貞治)さんが日本一の四球のタイトルを、持っていますけれど、2位が落合さんなんです。王さんはホームランを恐れて敬遠(四球)も多かったと思いますが、落合さんのは選びとった四球が、かなり多いと思いますね」
――選球眼がよかった2人、見逃し三振の数は?
「2人とも少なかったと思いますよ。ファウルを打つのも、2人ともうまいですが、落合さんは打てない球をファウルにして、それで甘い球が来るのを待つ。追い込まれてからも強かったですね。普通2ストライクまで追い込まれると、どんないいバッターでも打率が1割、2割下がってしまうんですよ。けれど、落合さんは2ストライク後が高い。よっぽどのバットコントロールとファールにする技術を持っている。追い込まれても怖くなかったんでしょうね」
――見逃すボールも、審判の基準とほぼ変わらないですか?
「僕も判定で『あっ、しまった』と思ったことがありました。インコースの外れた球をストライクと言ってしまった。そしたら(落合は)こっちをちらっと見て、『おい、外れてただろ』と。もちろん、その後は暴言などもなくスッと帰っていきましたけどもね。やっぱりわかっているなと思いました。昔、よく言われたんですよONボールと……」
――王(O)ボールと長嶋(N)ボールですか?
「王さんも長嶋さんも、選球眼が良かったんですよ。きっちりと見切っている。だけど、周りが見ると同じように見えるから『王さんだから忖度したんじゃないか』と穿った見方をされるんですが、そんなことはないんですよ。王さんも長嶋さんも審判と同じように磨いているんですよ、選球眼を。何万球、何十万球と打ってきている人ですからね。自分の中にちゃんとしたものが出来ていると思いますね」