悩み、苦しみ、12年目― 「浪速の轟砲」T-岡田が描く本塁打という芸術
22歳でホームランキングも伸び悩み…、今季好調で8月にプロ通算150本塁打を達成
「野球の華はホームラン」と言われる。たとえ劣勢でも、その一発が飛び出すだけで球場は一気に盛り上がり、ゲームの流れは大きく変わる。豪快な一振りがチームにもたらす「1点」を、たった「1点」と侮ることはできない。だからこそどのチームも、喉から手が出るほど絶対的な大砲が欲しい。
オリックスのT-岡田は今年8月26日の埼玉西武戦でプロ通算150本塁打を達成した。プロ12年目、今季25号目での達成だった。彼が生み出す本塁打は、飛距離、放物線ともに球界随一の美しさを誇る。美しさの基準は人それぞれとはいえ、リーグ屈指のホームランアーティストであると言っても、決して大げさではないだろう。
T-岡田は、2005年のドラフト1位でオリックスに入団。履正社高校時代はその打棒と高校通算「55」本塁打などにちなんで「浪速のゴジラ」と称され、辻内崇伸氏(大阪桐蔭)、中日の平田(大阪桐蔭)、鶴直人氏(近大付)とともに、「浪速の四天王」と呼ばれていた。
プロ入り後4年間は、ほとんどの時間をファームで過ごしたが、2010年、転機が訪れる。2009年のシーズン終了後に監督に就任した岡田彰布氏が、登録名変更を提案。ファンからアンケートを募り、ティラノサウルスを表す「T-レックス」と本名の「岡田貴弘」の頭文字をもじった「T-岡田」という登録名で、2010年シーズンに挑む。
すると、学生時代に数々の伝説を打ち立ててきたその才能が開花。大きく両足を開いた独特のノーステップ打法で33本のアーチを描き、パ・リーグ本塁打王に輝く。22歳という若さでホームランキングの称号を手にするのは、あの王貞治氏以来、48年ぶりの快挙だった。