ファンどよめかせた“甲斐キャノン”の一塁牽制死 専門家が指摘した“選手心理”

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】

中日で盗塁王、引退後はロッテ、日本ハム、中日でコーチを務めた平野謙氏

 捕手からの素早い一塁牽制でアウトになる瞬間。球場には一瞬の静寂から大きな歓声が響き渡る。ソフトバンクの甲斐拓也捕手が22日に行われたオリックス戦で一塁走者の福田を刺したプレーもそうだった。走者は盗塁をしようとしたわけでも、リードが大きかったわけでもない。

 なぜこのようなビッグプレーが生まれたのか。中日時代には盗塁王を獲得し、西武では黄金期の外野手として活躍。ロッテ、日本ハム、中日でコーチなどを務めた野球解説者の平野謙氏に解説してもらった。

“甲斐キャノン”が発動したのは3回だった。先発の千賀滉大が2死から福田に左前安打を許し、迎えたT-岡田の打席。1ボールからの2球目、インコースへの154キロがボールとなると、鋭くステップ。福田を刺せると読むと、すかさず一塁へと牽制。矢のようなストライク送球し、頭から戻った福田を間一髪のタイミングで刺して3アウトに。相棒の千賀を助けるビッグプレーになった。

「捕手からの一塁牽制はよくあるプレー。私も一塁コーチャーをしていた時は『捕手からの牽制には気をつけなさい』と走者に伝えていました。甲斐選手のあのプレーはフットワークが速い、スローイングも正確。アウトにしたのは大きかったですね」

 平野氏はまず甲斐のプレーを褒めると、この牽制死が起きた要因は走者のほんの小さな「油断」だったと指摘する。この時の福田はやはり甲斐の肩を警戒して、第1リードも、第2リードも大きくなかった。そこのどこに油断が生まれていたのか。

「リードが小さければ、走者の心理からすると“自分のところに牽制はまずないだろう”と思う。走れる選手が、大きくリードをする時は、しっかりと戻ることに意識を置いています。盗塁もしなければ、牽制もないと思ってしまっていれば、帰塁への意識は低くなってしまう」

 帰塁への意識が高くないという心理、行動を甲斐に突かれたというのだ。中日にいた1984年は48盗塁で盗塁王を獲得。常勝西武に移籍した後も、1、2番で塁をかき回して、得点に繋げていた平野氏はいろんなパターンのリードを試し、多くの投手のクセや特徴も見抜いてきた。

「プロの選手ならば、リードを見るだけで走るか、走らないかは大体わかります。わかりやすく言うならば、大きなリードをして、いかにも走るぞ! と思わせている走者は盗塁はしてこない。逆に、足を使える選手がいつもよりもリードが小さいなと思えば、走ってくるケースもあります。自分が外野の守備で見ていてもわかることがあります」

 甲斐は大きいリードを見ていたのではなく、小さかったリードに牽制で刺せる可能性を見い出した大きなプレーだった。

(Full-Count編集部)

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