田中将大の陰に埋もれてしまった男 金子千尋は球界のエースとなれるか
選考基準を満たしても表彰されなかった投手
2003年には井川慶(阪神)、斉藤和巳(ダイエー)がそれぞれセ・パ両リーグから選出されるなど、過去に同時受賞した例はある。だが、今回は同一リーグだったため実現していない。今回の選考委員のコメントでは「毎年、議論が出るが今年はなかった」というものがあった。確かに田中は文句のつけようのない数字を残しており、その圧倒的なマー君の陰に金子が埋もれてしまったのも無理はない。本人も、どこかで理解は示していただろう。ただ、少しでも彼を称賛する声があっても良かったのでは、と思わせるほど、今年の成績は素晴らしいものだった。
古くは1982年。江川卓(巨人)が19勝を挙げるなど7項目をクリアしたが、北別府学(広島)も同様に7項目をクリア。防御率も奪三振も江川が上回ったが、20勝の北別府に軍配が上がった。1987年は工藤公康が7項目をクリアしたが、当時はパ・リーグが対象になっていなかった。審査委員の印象度、時代背景なども影響し、項目をすべてクリアしながら栄誉を手にできない投手たちは過去にも存在した。
残念ながら、今年は田中と金子が先発として投げ合うことがなかった。金子がもし投げ勝つことがあれば、印象も変わっていただろう。また、金子は好投しても完投負けする試合が多かった。チームも5位に低迷。それでも8月21日のソフトバンク戦では8回2死までノーヒットノーランを続けるなど、力のある投球を見せている。
来季は田中がメジャー移籍する可能性が高く、日本球界屈指の右腕として注目されるのは間違いない。そこでもう1度、今年のような活躍を見せれば、その時は文句なしに今季届かなかった栄冠を手にすることができるだろう。田中が不在となっても、日本には偉大な投手がいる。そう証明するくらいの投球を、30歳の右腕には期待したい。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count