楽天に入団する若者の胸を打たれる秘話 内田靖人が背負うものとは
仙台に入団することになった“運命”
敬子さんは笑う。「そんな、私に恩返しとかはいいので、しっかりとチームに貢献してほしい」。楽天のユニホームに袖を通した我が子は本当に大きく見えた。その意味では、息子はすでに恩返しができているのかもしれない。だが、内田にとってはまだ不十分なのだ。これからも母にもっと喜びを与えるために一層努力し、他界した父にも勇姿を届けていく。
加えて、入団した先が楽天となったことも、運命、いや宿命と言えるに違いない。内田は福島県いわき市で育った。「東北を元気づけられるような活躍をしたい」。その言葉は本心からくるものだ。いわきも東日本大震災で大きな被害を受けている。楽天が日本一になったことで地元が盛り上がる様子を目の当たりにした。野球の底力を再確認した若者は、次は自分だという思いが強い。仙台の地に戦いの舞台を移す内田は自分が活躍することで、東北が再び活気づくことを願っている。
大阪桐蔭から西武に入団した森友哉と並ぶ、高校最強スラッガーでキャッチャー。奇しくも、高校球界NO1投手の松井と同じチームに入ることになった。将来、バッテリーを組む可能性もあり、「あの松井のスライダーを取れるように頑張らないといけないですね」と自身の成長を誓う。捕手は投手と、投手は捕手とともに成長していくこともある。内田にかけられる期待は、それだけ大きい。
母を幸せにすること。被災地を元気づけること。そして、松井裕樹という同年代のエースと同じ球団に入団すること。さまざまな面で、18歳の青年は他の高卒ルーキーとは違う宿命を背負っていると言える。しかも、彼にはそれを力に変えるだけの人間力がある。常総学院の元監督・木内幸男氏(82)は「優しい性格だけど、芯は強い。星野監督のような厳しい人の下についていけば、大丈夫でしょう」と太鼓判を押している。自分のためだけでなく、人のためにがんばれる。そんな楽天の新しい背番号8には、大きな可能性が詰まっているのだ。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count