米国内で極限にまで膨れ上がった「マサヒロ・タナカ」像は果たして虚像か、実像か
伝言ゲームのような報道が続いた
数週間前まで、旧制度なら入札金は7000万ドルを超えるだろう、と予想されていたものが、最大でも2000万ドル。言ってみれば、2000万ドルの移籍金を払ってのフリーエージェントだ。言葉は悪いが、田中で一儲けできると考えていた楽天の経営者的立場から見れば、あり得ない商談だ。ポスティング制度を利用するか否かの権利は球団が持つ。ポスティングされない可能性が急浮上したと同時に、ポスティングされることを前提としていた報道が、根幹から大きく揺れた。
このオフほど、日本のメディアが伝えた情報を英訳して、米メディアが引用した例はないだろう。田中はそれだけ情報を求められる人物であるにも関わらず、アメリカ側では何一つ漏れ聞こえてくることはなく、まさに雲をつかむ状態だった。実際、楽天関係者に直接取材した米メディアは、ボストンの大御所記者ピーター・ギャモンズ氏だけだ。楽天の三木谷浩史オーナーを電話取材したギャモンズ氏の記事以外は伝聞の報道。ともなれば、「無敵の田中を日本から追い出すために、楽天以外の球団が金を出し合って、新制度で楽天が損するであろう金額を埋め合わせする」とか、「楽天は今季のポスティングを見送り、田中は来オフのメジャー移籍を目指す」とか、伝言ゲームの極致のような報道がまことしやかに流れる状況を招いても不思議はない。
そして、2014年を迎えようという今、ようやくアメリカでも田中の実像が片鱗を見せ始めた。12月26日にポスティング制度の利用申請をしたことが、メジャー30球団に正式に通達された。代理人に選ばれたのは、ジーターらを顧客とするケーシー・クローズ氏。アメリカでは待ちに待った争奪戦の火ぶたが切って落とされたわけだが、それと同時に「田中将大」という人物の実体が伝わってくることにもなる。黄金の国ジパングのように膨れあがった田中のイメージは、果たして実像と合致するものなのか。自分の意思とは関係なく期待が高まり、それに応えることを求められる。この終わりなき挑戦を続けられる人物こそがスーパースターなのだろうが、なんとも因果な商売に思えてならない。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato