なぜ盗塁記録は塗り替えられないのか? セ・リーグ史上NO1の盗塁王が語る盗塁の極意と秘話

飛び抜けて俊足だったわけではなかった

tourui
過去10年間のセパ両リーグ盗塁王

 過去にはノーサインで走ることが許された時代もあったが、松本氏が現役のときは監督からのサインが出ていた。そこで指揮官の思惑通りに走ることができれば、次もチャンスを与えられるが、失敗が続けば、徐々に機会は失われていく。

「例えば、パ・リーグで言えば、楽天の聖澤はすごい。ほかにも、いい選手はたくさんいる。当時の僕らと変わらないか、それよりも足の速い選手は多いくらいですよ」

 だが、それでも記録は塗り替えられていない。松本氏いわく、重要なのは年間を通して結果を出し続ける持続力があるかどうか。また、足が速いだけでは盗塁は成功しないとも説明する。

「結局、勝負は塁間。駆けっこで、いくら50mや100mが速くても、あの短い間(27・431m)でスピードを出さないといけない。スタートがしっかりと切れるか、加速がどこから伸びるのか。そしてもう一つ、いかに止まらないようにスライディングをするかも大事になってくる。それがワンセットになれば、盗塁は成功しやすくなる」

 自身、飛び抜けて俊足だったわけではなかったという。小学校時代からリレーの選手には選ばれていたものの、1番にはなれず、周りには自分よりも足の速い子どもたちがいた。だが、報徳学園2年ころからチームメイトと盗塁を競うようになり、塁間を走る感覚が鍛えられていったという。結果、早稲田大学で東京六大学の盗塁記録を塗り替えるまでになった。

 それに目を付けたのが当時、巨人を率いていた長嶋茂雄監督だ。早大から日本生命に進むことが内定していた松本氏は一度は巨人の誘いを断ったものの、ドラフト5位指名を受け、その後、長嶋監督と面談。「どうしても足が必要なんだ」と口説かれて、心が動いた。

「ちょうど後楽園が人工芝に変わるということもあって、そういう話をされて、それで自分の中でもプロを意識するようになりました。足だけって言われたのはちょっとショックでしたけど」

 松本氏は苦笑しながらそう振り返る。大学時代に左肩の脱臼癖がついてしまい、一度はプロの夢を断念していたが、結局は巨人入りを決意した。

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